




![]() |
5 | ![]() ![]() |
455件 |
![]() |
4 | ![]() ![]() |
87件 |
![]() |
3 | ![]() ![]() |
75件 |
![]() |
2 | ![]() ![]() |
61件 |
![]() |
1 | ![]() ![]() |
324件 |
合計 | 1002件 |
投票数が同じ場合は新しい順です。
レビューの時間をクリックすると、そのレビューの書き込まれている位置に移動します。
ヒロインを演じている伊藤沙莉ちゃんは、その演技が上手いにしても、周りを取り巻く役者さんたちが今一つパッとしないので、何か、一人浮いているような感じがしますよね。それに、あの “ はて!? ” という台詞は、もう無理やり感が半端ではないので、もう止めて欲しいと思います。とにかく、このドラマは、限りなく地味で暗くて、まったくエンターテイメント性がないので、朝ドラとしては、余り魅力的なモノに見えないんですね!!
まるで法曹の世界を目指している女の子たちの茶番劇を見せられているような気がしますよね。とにかく、お話の展開があっちにいったり、こっちにきたりしていて、その方向性が定まらないドラマだと思います。それに、ヒロインの寅子ちゃんの性格や言動には、あまり魅力的なモノを感じないんですね。ですから、いつもイライラ感が募るばかりの朝ドラに見えるんですけど・・・!!
※このドラマのモデルである三淵嘉子さんの父親の武藤貞雄さんは、まったく何の事件にも絡んでおらず、当然のように逮捕歴もないので、かなりモデルの方に失礼な描き方になっているんですね!!
ヒロインの寅子ちゃんの母親であるはるさんは、あんな簡単に心変わりするでしょうか!? ハッキリいって、ちょっと安直な描き方すぎますよね。それに、このドラマは、尾野真千子さんのナレーションでの寅子ちゃんの心情や、劇中の内容と状況の説明が多くて、その寅子ちゃんを演じている伊藤沙莉ちゃんを始めとした他の役者さんたちの演技で、それを表現することが、ほとんどない朝ドラだと思います。ですから、テレビドラマにしなくても、映像がないラジオドラマで、もう充分だという感じがするんですね。そして、伊藤沙莉ちゃんは、その演技力の高さと反比例して、余りにも地味すぎるというか、朝ドラのヒロインらしい輝くような明るさが、まったくもって見受けられないです。それでは、この先のお話の展開が、ちょっと思いやられるんですね!!
◆演出・カメラワーク◎
自分の過去(母親のこと・結婚のこと)を話し、我が娘の「幸せ」のためにと必死で寅子を説得する母。喋る母(石田ゆり子)は横顔のみで、黙って聞いている寅子(伊藤沙莉)を映し続けるカメラワークが良かった。(後のシーンでの行き交う人々や、ラストの橋のカメラワークも良かった)
◆脚本・台詞◎
母の言葉を聞き、目を潤ませた寅子の第一声。「ありがとう。私を心から愛してくれて」・・これだ!最後までありがとうが言えなかった鈴子は論外として苦笑、母親に反対された時に「お母さんだって中退したくせに」と言って傷つけた舞など、どういう台詞を言わせるかでヒロインやドラマへの評価が変わる。脚本家にかかっている。
真っ先に「ありがとう」と言わせ、「母の愛」を肯定的に描いた脚本に拍手!笑。たったそれだけのことと侮るなかれ。なんせそれだけのことができない脚本家が少なくないのだから。
で、感謝の言葉の後に自分の気持ちを伝えた寅子だったが、言葉の行き違いで母を怒らせてしまう。「幸せと地獄」・・この脚本家、言葉のチョイスがなかなか上手い。「女性は無能力者」について法的な解釈を聞いた寅子に言わせた「スッキリはしませんが、ハッキリしました」も上手かった。短く簡単な言葉で、状況がよくわかる。言葉選びのセンスは重要だ。
◆テンポよく痛快な展開
新しい振袖を作るために、母と待合せした甘味処に向かう、沈んだ表情の寅子。そこには桂木の姿が!ミラクル偶然の「朝ドラあるある」だが、きちんと伏線は描いてあった。小林繁演じる教授がお礼に団子を渡したシーンから、どちらかがあるいは2人共が甘いもの好きで、贔屓にしている店があるのだと。
桂木とバトルする寅子。そこに現れた母が桂木に啖呵を切り、寅子に加勢する。店を出た母は呉服屋を通り過ぎ、書店で「六法全書、ください!」・・痛快だ!笑。また「幸せ」のためにはお見合いした方がいいと言いつつ、それでも「地獄」を見る覚悟はあるのかと寅子に尋ねる。あると答えた寅子を見て微笑む「スンッとする自分の人生を後悔していない」母と、そんな母を見て笑顔が戻った「スンッとしない代わりに地獄の切符を手に入れた」寅子。
◆上出来の第1週だった。ヒロインと周りの人間のキャラと関係性を描き、時代背景とそれぞれの女(母や親友)の幸せを描き、母の愛を描き、ヒロインの人生の選択を描いた。母娘の心情(苦悩や葛藤)を脚本がきちんと書き、演者2人がそつなく演じた。
松山ケンイチの存在も大きい。大学での厳しい顔。大好物のだんごを前に、少し嬉しそうな顔。寅子とのバトルでだんごを持ったまま、真面目に熱弁する顔。母の乱入でだんごを持ったまま、一方的に責められ困惑する顔。表情といいしぐさといい、やはり上手い!過剰演技をさせない演出も良い。松ケンだけでなく、仲野太賀も台詞のないシーンでも抜かりない演技で魅せてくれた。
揺れ動く感情を豊かに表現する伊藤沙莉。「ありがとう」をきちんと言わせてくれる脚本家でよかったね。一安心した。趣里は気の毒だったから・・。期待できそうな制作陣と演者たち。来週も楽しみだ。
寅子の家庭環境の描写が適当で共感できない。
父親も母親も存在感ないし下宿人のキャラも活かしきれていない。
兄夫婦はいるだけ邪魔になってる。
・法廷シーン
被告に着物の引き渡しを命じる判決。夫の「権利の濫用」であるとして。穂高教授曰く「人間の権利は法で定められているが、それを濫用悪用することがあってはならない。【新しい視点】に立った見事な判決だった」・・なるほど。「自由なる心証」もそうだが、専門用語をわかりやすく描いていて良い。これを難しいとか暗いとか感じた視聴者は、気の毒だがこのドラマとは合わないかもしれない。面白い!見応えあると感じた視聴者は、半年間楽しめるかも。
で、穂高の「こういった小さな積み重ねが、ゆくゆくは世の中を変えていく」に対して、よねが「甘すぎます」と反論。「本来法律は力を持たない私たちが、ああいうクズをぶん殴ることができる唯一の武器であるはずなのに」と。
・階段シーン
原告妻を恫喝し、殴りかかろうとしていた被告夫を、寅子が止め、退散させる。寅子たちの傍聴が心強かったと礼を言い「最後まで戦う」と妻。
ここでもよねが「殴らせれば逮捕できたのに」と反発。寅子「法は弱い人を守るもの、盾とか傘とか温かい毛布とか、そういうものだと私は思う」。そして「地獄の道を行く同志よ。考えが違おうが、共に学び、共に戦うの」
・・上手い脚本だ。よねが法廷シーンで「法律は武器」発言をした時には寅子に発言させずに、階段シーンで発言させた。その効果は絶大だ。①殴りかかるクズ夫と、弱者妻の「戦う」発言を描いたことにより、【法律とは規則なのか、武器なのか盾なのか】を、より明確に表現するすることができた②「地獄の道を行く同志」発言を、穂高のいない、同志だけの場で言わせることができた。地獄の道を行く女学生たちの笑顔笑顔笑顔・・③その様子を、物陰から桂場が見ていたシーンを描くことができた・・これらがアリとナシでは、ドラマの奥行きが全然違う。
・猪爪家シーン
花江の味付けに「悪くない。でももうちょっとお砂糖入れても」と甘くない、はな。「はい」と素直に従う笑顔の花江が振り返り、笑みが消える瞬間。スンッの結婚を選んだ姑と嫁だ苦笑。そこに「もし結婚に絶望しても、私が助けてあげる!」と帰宅した寅子。呆気にとられる姑と嫁。「私、盾みたいな弁護士になるの!」というご機嫌な様子に、嬉しそうな優三・・わずか2分弱のシーンだが、脚本演出演者、抜かりナシ。お見事!
・ラストシーン
ナレ「寅子はまだわかっていませんでした。自分がいかに恵まれた場所で生まれ育ったのか」。歓楽街のカフェーで黙々と働く、よね。日焼けして自分の価値を下げるなという母に反論できない、立派な屋敷に住む涼子。自室で六法全書を手に取り、満面の笑みの寅子・・あ~、そうきたか。ここで、あの階段シーンの【地獄の道を行く女学生たちの笑顔】が効いてくるのだ。木曜にチラ見せした、それぞれの背景と、思いを秘めた表情も。階段シーンで涼子に「合わないお相手と無理にご一緒しなくても」と言わせたのも。全て繋がっている。
・・先週同様に今週も、キャラ設定の確かさと、ストーリー展開や見せ方の上手さが際立った。前作のようにヒロイン上げになってはゲンナリするところだったが、ラストのナレでそうではないことを暗示した。「まだわかっていない」寅子の地獄の道は始まったばかり。今週も面白かった。来週も楽しみだ。
このドラマは…
なんだろう、すごくつまらない…
一週間見るのすらめんどくさいレベル
視聴者が置いてけぼりで演者と作家連中が
盛り上がってる感じ?そんな壁を感じた
期待してたのに残念
今でも司法の世界は男性社会だ。ましてや戦前なんてもっと男性社会だったろう。
そりゃー、寅子がこれから進む司法の道は大変でしょう。それこそ苦難のイバラの道で大変度MAXの地獄の世界である事間違いなし!
ましてや寅子は日本初の女性弁護士で裁判官になる女性だそのファーストペンギンになるんだから。
母親はよくそれは解っているから寅子に地獄だよと言ったのだ。
なにしろ日本は今だに
『男尊女卑依存社会』
『勝ち組正義社会』
なのだ。
日本は世界で一番、政治や行政、司法のトップで活躍する女性が少ない国になんだから。
なお、男尊女卑の女卑の中には女性以外にもLGBTQ、障害者、人種、低所得、階級も含まれる広義な意味となる。
これから寅子は男尊女卑依存社会の理不尽さと闘いまくるだろう。それは身を切る激しい闘いとなる。
寅子は体制やシステムと闘う
『女戦士の勇者』、ヒーローなのだ。
我々はこれから女勇者寅子の偉大なる闘いの物語を見ていく事になる。
そして、寅子は一つずつ難関をクリアーしていく。しかも結婚して子持ちになり家庭も築いていくのだからスゴイ。
実はこの朝ドラはそういう朝ドラなのである。
地獄の女戦士の闘い。あーっ、考えるだけで燃える物語が展開しそうで、ワクワクしてくるじゃありませんか!
まさに漫画の世界そのもの!
そして、入学式は闘いへの始まりの地獄の入口の第一歩であったのだった!
さぁー、寅子、これから応援しまくるぞ!
ちなみに前作「ブギウギ」のヒロインのモデルの笠置シヅ子も実はファーストペンギン で日本の体制やシステムの理不尽さと闘いぬいた偉大なる勇者で女戦士だった。活躍した世界は違うが寅子と同じなのだ。
しかし、「ブギウギ」では、制作と脚本家に完全にそこは無視されて描かれず、たんなる大阪のアホなうるさいおばちゃん流行歌手にされてしまった。
笠置シヅ子のその素晴らしい女戦士の勇者ぶりは視聴者にはまったく伝わらなかったのがとても残念だった。
その闘いもあったから、笠置シヅ子には文化人の応援団がたくさんついたんだけどね。
『寅に翼』では「ブギウギ」のようにはならないで欲しいとしみじみ思ってます。
脚本家さんや制作さんよろしくお願いしますね!
◆キャラ設定と描き方の上手さ
・花岡
女子に理解のある爽やかイケメンとして登場させ、後に裏の顔があることを描いた。が、そこで引っ張らずに【虚勢を張っていただけ】とし、ナレに「みんなイイ人」と言わせたのは大正解。明律内での足の引っ張り合いはなくていい。戦うべき相手は他にいる。
・轟
これまた「イイ人」であり、花岡を覚醒させた。「撤回しろ!」「あの人たちを好きになってしまった。漢だよ」、花岡をビンタ・・いい!笑。脚本演出演者がピタリとハマって、魅力的なキャラになっている。「#俺たちの轟」としてSNSが盛り上がっているのも納得。
・梅子
家庭での苦悩や葛藤を経て「戦う女」として強くなったのだとわかる描き方。女子たちや花岡への優しい言葉や眼差しは「母」のそれであり、長男の存在を視聴者に意識させる効果絶大。
・玉、よね、涼子
男子たちの心ない言葉を、梅子が気にしない様子を見て、玉「素敵なレディー」、よね「許すことを美徳と勘違いするなよ、玉」、涼子「梅子さんの好きなようになさればいい」・・いい!笑。この三者三様の描き方。たったこれだけの台詞で、それぞれのキャラを見事に表している。
・優三
家宅捜索のシーンで、優しくて、誠実で、責任感のある様が描かれた。最後にトイレに駆け込む描写があったが苦笑、「緊張するとお腹が痛くなる」という彼のキャラを描いたものであり、司法試験に落ち続けていることを彷彿とさせた。前作で、初恋の理由として「う○こ漏らし」を設定したり、空襲警報の最中に「大きい方でっか?出ましたか?」とトイレネタを延々と描いたのとは、全く別物であることは言うまでもない。
◆ストーリー展開の上手さ
まず「ザ・平和」な本科生活を描き、大庭弁護士と長男の登場で不穏な空気にし、ハイキングで爆発させた。その後に何をどう描くのかと思ったら・・仮面を脱ぎ捨て、素に戻った花岡による梅子への謝罪(←重点は梅子の言葉)と、寅子への「君のことばかり考えてしまう」・・笑笑。まさかの告白。戸惑い、後に浮かれた寅子がなんとも可愛いかった。ここで恋ばな突入かと思わせておいての、父逮捕。そう来たか。
はるが日記をつける習慣の描写。「俺にはわかる!」の兄の予想が外れる描写。よねがカフェーで新聞を読んで、明律女子部を受験した描写。今まで描いてきたことが、全て今回効いていた。まだある。涼子両親の重い空気と、母親が朝から飲んでいる描写(今回涼子は新聞を読んでいた)。寅子の明律法学部入学時の記事を、直言が嬉しそうにスクラップしていた描写・・今回は直言逮捕の記事を、寅子がスクラップしていた。また、手をついて直言の弁護をお願いする梅子に対して、何をバカなことをという態度で一蹴した夫と長男。今まで描いてきたことが、全て繋がっていた。
こういう丁寧な描写の積み重ねが出来るかどうかで、ドラマの奥行きに差が出る。描くべきことをきちんと押さえ、ピリッと締めるところは締める。緩急メリハリと、視る者を引き付ける怒涛の展開。制作陣(脚本演出)も演者も、よくわかっている。
ラストは「君のことばかり考えてしまう」花岡が、穂高教授を連れて猪爪家に参上!・・「君を励ますために、歌って踊れるパフォーマーの僕が来たのさ」「はて?」「撤回しろ!」いや、轟はおらんがな。・・白馬の王子ではなく、共に戦う同志であれ。今週も面白かった。来週も期待できそうだ。
「盾の弁護士になる!」
「地獄の同志!」
なんと燃えるしびれるセリフなんだろう!
また、こういうセリフを言う時の伊藤紗莉ちゃんのなんとも様になる事か。
私は寅子役は彼女で大正解だったと思った。
この週末は家や職場、常連の飲み屋でも、この「寅に翼」の話でかなり会話がはずんだ。批判箇所はかなりあるけど、ほとんどが好意的だった。
中でも案外多かった意見が、この朝ドラがエンタメの王道にそって作られている。だから面白いという意見だ。
平凡な主人公が自分の道を見つけて、闘う目的と大義名分と闘う為の武器やアイテムを手にいれ、やがて同志の仲間達と知りあい、その仲間達と一緒に手強く巨大な敵達と戦いまくり、ひとつの目的を達成する!
これがエンタメの王道なのだが、まさに「寅に翼」の話の構造はこれそのものだろう。
平凡な女学生だった寅子が法律と出会いその道を志し、法律学校に入学して、闘う目的と大義名分と武器を手にいれ、闘う敵の存在を認識してそして仲間達と出会い、仲間達と一緒に闘かっていくわけである。この二週間の序盤でそれが明確に描かれていた。
この脚本家さんはなかなか上手いなと思った。あのセリフこそ、まさにその上手さが発揮されてると思う。
エンタメ王道の場合一番重要なのが主人公の闘う目的と大義名分と武器と巨大な敵の存在。すぐれたエンタメ作品はこれが実に解りやすく明確に定義されている。
またそれがブレているとエンタメ作品としては成功しないのである。世の中の優れたエンタメ作品はみんなそれがあてまるというしだい。中でもその典型なのがジャンプ漫画のヒット作だろうと思う。
さて、「寅に翼」の寅子の場合は、
闘う大義名分→女性や弱者を法律で助ける。
闘う目的→女性や弱者を守る盾の弁護士になる。
闘う武器→法の解釈と六法全書。
闘う敵→女性や弱者をいじめる存在、そして彼女達の前に立ちはだかる、日本の社会制度システムとその理不尽さである。
これがちゃんと序盤で明確に描かれ、しっかりエンタメの王道にそっている。しかも仲間達の存在も描かれたから感心してしまった。
やはり、みんなと話すと、ジャンプ漫画ぽいやら特撮戦隊ぽいやらラノベの異世界モノのパーティーぽいなんて意見があって面白かった。
女房などは「寅子は戦隊のレッドだよね」と喜んでいた。
みんなの意見を聞いていると共通しているのは、これは
『寅子とその仲間達の話』
としてとらえている点。そしてだからこそヒロインはやや珍獣キャラの伊藤紗莉ちゃんでちょうどいいじゃないのという意見。
私もそれにはげしく同感である。なにしろ仲間達のキャラがたちすぎていて、しかも演技巧者女優ばかりだから、伊藤ちゃんはまさにうってつけなのである。
ちなみに仲間には桜井さんの付き人の玉ちゃんも入っている。玉ちゃんはこれからかなり重要な存在になると思う。
さて、これから寅子と仲間達の闘いが始まる。
どんな闘いを見せるのか?
もう、毎回楽しみでたまらないです!
~主軸を外さず、緩急メリハリ~
第1週の感想でも書いたが・・全体的に軽いタッチで描かれてはいるが、そうではない部分とのメリハリがあり、観ていて小気味良い。何より、コメディータッチでありながら、尺稼ぎのおふざけコントではなくテーマに沿った描き方をしている。
・女学生たちのキャラ
第1週で寅子と家族【特に母と兄嫁(元親友)】のキャラと関係性を描いたように、今週は女学生たちのキャラと寅子との関係性を描いている。
ドラマとしての主要メンバーだから寅子の周りに配置したという形ではなく、ナレを使って「クラスでなんとな~く扱いにくい一派としてまとまり・・」という【女子あるある】に描いた脚本はやはり上手い。だから一緒に弁当を食べても「美味しい」と「いい天気」しか会話が続かないと笑。わかるわかると頷きながら観た女性視聴者は多いだろう。普通の女性とは違う道を選び、その中でも異端な彼女たちだが、普通の女性の感覚があるということをサラッと描く巧妙脚本。また「扱いにくい一派からも扱いにくいと思われている」男装の麗人。個性豊かな面々の成長が楽しみだ。
・女学生vs地獄
①魔女部とか結婚できないとか言って、からかう男子。行為自体は「幼稚」(←きちんとそう言わせている)だが、そういう目で見られているという現状を描いている②穂高教授には腰が低く、寅子をぞんざいに扱う記者が書いた、悪意丸出しの歪曲インタビュー記事③その記事を見た近所の人たちの冷ややかな反応④法改正が見送られた・・①~④全て、寅子が踏み込んだ「地獄」を描いているのだ。ちなみに・・②の歪曲記者は前作を思い出させるが、③の記事を見た近所の人たちの反応は前作では完全スルーだった。今作脚本家は芸が細かくて良い。
・法廷シーンと女学生たち
寅子と穂高教授の呼び掛けで、貴族お嬢・弁護士妻・留学生の背景をチラリと描き、彼女たちが傍聴を決意したシーン。それに続いた大勢の女学生たちが法廷に向かったシーン。アッパレ!!今週描いてきた、メソメソする女・ヘラヘラする女・イライラする女・地獄の道に足を踏み入れたその他大勢の女たち・・彼女たちがそれぞれの思いを胸に立ち上がり、法と向き合う様を見事に描いた。劇伴も良かった。早く続きが見たい!明日も楽しみとあさイチでも言っていたが、まさに。「自由なる心証」による判決と、彼女たちの反応をどう描くのか。このズキズキワクワク感は何ヵ月ぶりか。
・法と女性たち
同期4人の背景は、今後しっかり描かれるだろう。寅子が自分にとっての結婚は「地獄」としか思えなかったように、彼女たちにもそれぞれの地獄があるのか。その地獄を変えるため?に、あえて地獄の道=法曹界を選んだ女性たち。男性が悪いのではなく、法が悪かったのだ。第1週で「スッキリはしないが、(原因が)ハッキリした」と、きちんと描いている。やはり、このドラマは脚本が上手いし、面白い。NHKプラスの視聴数が好調なのも納得である。
3日間視聴して、良いスタートダッシュだった。
◆オープニング
米津玄師の主題歌が朝から耳に心地良い。曲・映像・タイトルロゴの雰囲気も合っている。
◆ナレーション
尾野真千子の落ち着いた声が良い。寅子の心の声も代弁しているので、演技力を要するが・・彼女なら心配ないだろう。
◆キャスティング
岡部たかし・仲野太賀・小林繁・松山ケンイチ・・等々、芸達者揃い。期待大。ヒロインに伊藤沙莉・・期待と不安半々だったが苦笑、好印象。寅子のキャラに合っている。
◆脚本演出
導入としての、時代背景、ヒロインと周りの人間のキャラと関係性が3日間で(なんなら初日で)把握できるように描けていた。法曹(大学)シーンとプライベート(家族)シーンのタッチの差が、メリハリを作っていて良い。
寅子の見た目(個性派女優・おさげ髪→小夜)・台詞(梅丸歌劇団)・演出(書生の頭ゴッツン)・・等々、前作を匂わせるシーンがあったが、下品さや過剰演出がないので良い。制作陣の遊び心にニンマリ。
全体的に軽いタッチだったが、描くべきところはきちんと押さえていた。ヒロインの心情、特に人生の岐路における「苦悩や葛藤」をしっかり描いている。人間ドラマになっている。「連続テレビ小説」らしく、翌日に繋がる描き方も良い。
◆まだ始まったばかりでなんとも言えないが・・3日間の評価は充分合格点。星★★★★★!!笑。あっという間の15分だった。面白かった。明日も楽しみ。
よねさんの話が辛すぎるよ。
彼女は姉さんを助ける為に悪徳弁護士オヤジにその代償として嫌々ながら体を捧げた。多分、その時に処女も奪われたのだろう。
しかも、恐らく弁護士は彼女に金を渡す前にすでに中抜きしていたはずである。
そして、こうした彼女の身を切る屈辱的な行為も結局は意味なく終わってしまった。
彼女は女性の大事なものをあんな形でダマされるように失ったのだ。
なんという、哀しい話なんだ。つら過ぎる。よねさん、絶望しただろうな。
ドラマでははっきり体を捧げた事を語り描かなかった。察せよという描写で描いていた。
しかし、話を聞いた寅子と仲間達の衝撃を受けた顔がそれをもの語っていた。
また、カフェーのマスターの言葉もそれを裏付けしていた。
だいたいカフェーに住みこみ大学に通うなんて、普通なら出来ないはずだ。マスターも勤めている女給達もよねさんの悲劇を充分理解して共感しているから守り許しているのだろうと思う。
山田よねさんを通して当時の庶民の女性の立場と悲しみ悲劇をみせた見事で素晴らしい回だった。
彼女の悲劇を察してくれという風にさりげなく描いた脚本と演出が実に感心してしまった。上手いなと思った!
女の哀しみをこういう察してくれよというさりげないタッチで演出する名人の二大映画巨匠が吉村公三郎監督と成瀬巳喜男監督である。
なんか今日は成瀬映画や吉村映画を見ているような感じがしてうれしかった。
この朝ドラのスタッフはおそらくこの二大巨匠が大好きなはずだ。
ちなみに、よねさんに玉蹴られた法科のダサイ男子学生はザマーミロと思った。
だいたいあんな奴が卒業してよねさんを誘惑する悪徳弁護士になるんだろうから。
山田よねさんはもう一人ではない。法律の道と出会い、寅子達と出会った。
彼女には寅子とその仲間達がいる。カフェーのマスターやカフェーの人達もいる。
そして何よりも視聴者達がよねさんを応援するだろう。
私もその一人である。
さぁ、地獄の戦士となり寅子達と闘いまくれ❗
よねさん、応援してるよ!
◆巧みな脚本
「偽装腰痛」穂高教授の代理として、大庭弁護士が登場。以前の桂場代理講師も、そういう経緯・思惑だったのかとわかる描き方。ナレで余計な説明をせずに、視聴者の想像力をかき立てる。今作でのナレの役割(寅子の心の声)はちょっと特殊だが、絶妙なラインでハマっているのは、作品の世界観とナレの台詞を熟考している脚本だからだろう。前作のナレがアナウンサーだったように、単純に説明だけなら尾野真千子でなくてもいい。そうではないところに「虎に翼」らしさがあるのだ。
で、以前寅子たちがそれぞれの秘めた思いを胸に傍聴を決意したシーンで、梅子の背景としてチラ見せしていたのが・・「どんくさいなぁ」と言って母梅子を見下す息子と、それに同調するかのように冷ややかな視線を送る夫の姿だった。その夫が講義で梅子を揶揄し、梅子はスンッ。甘味処竹もとに息子が登場すると、帝大生への敗北感や屈辱感から今度は明律男子たちがスンッ。店主に「明律の皆さん、ご注文は?」と言わせる脚本がニクい笑。
その後の梅子の独白。良妻賢母になるべく戦わずにスンッと生きてきたが、戦う(離婚して親権を得る)ために明律法学部に来たのだと。やはり上手い脚本だ。「スンッ」が何を意味するのか。はるの、花江の、梅子の、そして明律男子の。それぞれの生き方や心情を「スンッ」の一言で表し、尚且つ丁寧に繊細に描いている。
あの時のチラ見せと、度々登場した梅子の差し入れのオニギリを皆が頬張るシーン。これらが彼女の背景を効果的に演出した。DV夫と戦うことを決意した妻の、あの裁判を梅子がどんな思いで傍聴していたのか・・今その心情を視聴者に想像させるとは、やられた。先によねの背景を描き、本科進学後に夫と息子を登場させて、梅子の背景を描くと同時に、明律男子も絡ませての「法曹界の現実」を描いた、計算された脚本である。
◆魅せる演出、演者たち
判例を再現ドラマ風に猪爪ファミリーが演じているが・・今回も数分のシーンに手抜きナシ、というか全力投球(笑)。犬(石田ゆり子)に噛まれた女、岡部たかしだったのが、美人と聞いた後には森田望智に。寅子の脳内イメージという設定を活かした遊び心が満載のシーンだった。
緩急メリハリが上手くいっている。酔っぱらって遅くに帰宅し「寅子が幸せならいい」と言ったり、休日にはるとの約束をキャンセルし出勤したり・・何かが起こっている父直言を、台詞以外の表情や佇まいでも表現する岡部。その彼が女装しての、ベタな演技を見せる再現シーン。贅沢だ笑。前作の脚本では彼の良さが活かし切れていなかったが、今作ではハマっている。
◆見応えある「人間ドラマ」
緩急を演じられる役者が何人もいて、クスッと笑えるシーンもあれば、じ~んと沁みるシーンもある。何より、本筋を外すことなく、ヒロインや周りの人物の心情や成長を描く「人間ドラマ」になっている。絶賛はダメ?・・あほか!じゃなくて・・はて?良いと思えば誉めるし、ダメと思えば嘆く。それだけのこと。途中で失速する朝ドラが多いので、「虎に翼」はこのまま頑張ってほしいと思っている。さて、木曜に何を描き、金曜にどう締めるのか。期待を裏切らない良い出来だったら、絶賛するかもしれない笑。やめろと言うのは「権利の濫用」というやつか・・。
◆各人の思いと決断を丁寧に描写
共に学び、勉強会を開き、合格を目指してきた仲間たちの【それぞれの思いと決断】。自分に再チャレンジの道はないのに、仲間と未来の女子学生のために日本に残っていたが、帰国せざるを得なくなった香淑。父の駆け落ちにより、家(母)のために婿を取ると決め、自分の道を断念した涼子。離婚を言い渡されたため、三男を連れて家を出ることになり、試験を受けることができなかった梅子。
そして、筆記試験は合格したものの、口述試験で不合格となった2人。自分を曲げずに合格してやると誓った、よね。「潮時」だとキッパリ言い切った優三。
◆脚本の上手さが際立った
それぞれの事情と心情が細やかに描かれていた。背景やキャラを今までにしっかりと描いてきたので、説得力がある。感情移入した視聴者も少なくないだろう。
特に・・よねの台詞。香淑に対しては「帰るなら今しかないだろう」と言わせ、涼子に対しては「お前はそれでいいのか!」と言わせたところ。また、よねの強さに憧れを抱いていた涼子に、最後に「あなたみたいに強くなりたかった」と言わせたところ。よねのキャラのブレの無さと、ヒロイン上げではないことがよくわかる。あと、以前は「次男と三男は夫のような人間にしたくない」と言っていた梅子が、離婚して連れ出せたのが三男だけだったところ。時間経過と梅子の悲しみの深さを見事に描いた。
また、直言はる夫婦に不合格を報告した優三が、今までありがとうございましたと深々と頭を下げた後に「寅ちゃん、そんな顔しないで」と笑って言うところ。たまらないシーンだった。仲野太賀、ここにあり。役者を活かす脚本(演出)に拍手を送りたい。
時間経過と言えば、他にも・・前年の筆記試験不合格後の家族会議ではお腹が大きい花江を描き、今年度の試験前では寝ている赤ちゃんを描いた。そして、その合間に外での勉強会のシーンや、家で優三と勉強するシーン。この一年間の寅子(たち)の努力する姿を上手く表現した。
◆寅子の思いと描き方
香淑・涼子・梅子・よね・優三の「それぞれの思いと決断」を受け止めた時の、抑えた描き方。そして、祝賀会での「うちのパパとうちのママが~」という(頭の中での)歌声に合わせて、共に戦ってきた同志たちとの回想シーンがあり、記者の質問をきっかけに「モヤモヤしていたものの答えがわかった」として、一気に爆発させて描いた。
これは、かつて寅子が優三に弁当を届けた時に穂高・桂場と出会い、初めて法律に触れ「スッキリはしないがハッキリした」と言ったことに通じる。また、卒業式で穂高が言った「おかしなことを変える力が君たちにはある」(要約)や、よね(久保田)の口頭試験で描かれた「トンチキ」なことにも。全て繋がる計算された脚本だ。
何より、寅子に「私が社会を変えたい」ではなく、「一緒に変えて行きましょうよ!」と言わせたのがいい。前にも書いたが・・フェミドラマではなく、弱者に寄り添うスタンスで描かれている。「困っている方を救い続けます。男女関係なく!」・・これだ。ビンゴ!笑。寅子の宣言で、ドラマは新たな章の幕開けか。益々楽しみだ。
先週末に書けなかった分・・星★★★★★
◆重厚感のある法廷シーン
検察と直言のやり取り。演じる堀部の表情と、何と言ってもあの扇子を叩く音。上手い演出だった。静まりかえった法廷に響くパシッバシッという音が、自白を強要した検察の威圧的な態度そのものだった。それを聞き、過酷な取り調べがまた脳裏に甦った直言の、早まる鼓動が聞こえるかのような表情。最初に名前を述べた時の消え入りそうな声と、「扇子叩くの、やめてください!」と言った時の悲痛な叫び声。岡部たかしが魅せてくれた。
◆ストーリー展開と見せ方
「自白は強要されたものであり、真実ではない」と認めさせるまでの過程と、その描き方。判決文と、桂場と穂高のやり取り。いずれも見応え充分だった。また「猪爪家の長い戦い」からの「平和が戻った猪爪家」の描き方。直言はる夫妻の抱擁、酒を酌み交わす寅たち。羽子板と福笑いで季節感の演出も抜かりなかった。てか、目隠しされた優三の動き!笑笑。太賀の安定の上手さよ。で、このシーンから一転して、甘味処に座っている寅子の後ろ姿にシーンが切り替わるのだが・・先のシーンで優三に話しかけた寅子の手にはバックがあった。この細やかな演出は流石だった。
そして、寅子と桂場のやり取り。今までも「法律とは何か」を常に寅子に考えさせ、その様を丁寧に描いてきた脚本が、また新しい解釈を登場させ、次に繋げる形で描いた。しっかりと計算された脚本であることがわかる。桂場の松ケンと穂高の小林はハマリ役だ。この2人のキャスティングは大正解だろう。
◆法曹ドラマとホームドラマと・・
両輪のバランスがとてもいい。ヒロイン上げもなく、フェミの押しつけもなく、あの時代を懸命に生きた人々を描いている。主要人物だけでなく、脇役(寿司屋の大将や竹もとの夫婦。台詞のない通行人や竹もとの客たちでさえ)もイキイキと描かれている。100年前のあなたたちがいてくれたから、今の私たちがある。先人への感謝とリスペクトが感じられる。実にいい。今週も楽しみだ。
◆登場人物のキャラ設定の上手さ
よねの背景が描かれた。納得の過去だった。金持ち涼子と真逆の、貧乏よねというだけの設定にしなかった脚本はさすがである。男性に対する敵対心だけでなく、「お前みたいなのがいるから、女はいつまでもなめられるんだよ」と、女性(寅子)にさえ激しい感情を露にしていた描写や、「法律は武器」という主張など、全て繋がった。
◆ストーリー展開の上手さ
まず「毒饅頭殺人事件」の全容を猪爪ファミリーに演じさせ、無声映画の活動弁士風に寅子に喋らせたのは見事だった。芸達者な伊藤沙莉の、逆「口パク」笑。
法廷劇の準備のために、猪爪家に集まった面々(よね不在にした脚本が上手い)。留学生の失言「女中発言」により、かねてよりモヤモヤしていた花江とはるの緊張関係を描いた。「家(母親)」に縛られている涼子の窮屈さも描いた。で、法廷劇にヤジを飛ばした男子学生との乱闘があり、女子部に対するサゲ記事。
この後に、よねの独白を描いたわけだが・・ここから「再検証」を描いた脚本の上手さ。花江とはるに協力してもらい、毒饅頭の検証をする面々。そこで、よねと寅子に言わせた「戦う女と戦わない女」についての台詞。そして涼子の謝罪から判明した、まさかの学長による「事件内容の改変」。誰がこの展開を予想しただろうか。見事と言うしかない。弱者の女を救う女弁護士という、「女」を都合よく利用した大学側。これ、なかなか深い。「女」を強調するのは(良し悪しは別にして)それを特別視しているからであり、度々描かれる月のモノとのあえての対比。一見フェミドラマに思われがちだが、そうではないはず。知らんけど笑。
更に更に、ここからどう描くのかと思いきや・・時間の無駄だと言って帰ろうとするよねに反論し、寅子に同志がいて嬉しいと言うはると、私は孤独だと言って泣き出す花江。そこからの皆の「弱音吐露大会」と、よねが吐くのは怒りでいいという寄り添い。最後は寅子のためにツボ押しするよねを、皆が囲むシーンで締めた。直前に、いつも通りに働くカフェーでのよねの姿を描いたのもさすがだった。
◆繋がる展開、ブレない主軸
先週描いた「法律は武器か盾か」と「戦う女」から繋がる展開だった。そこに「戦った女」よねの背景を絡めて描いたのが脚本の上手さ。「戦わない女」でスンッと生きる道を選んだ花江とはるを絡ませたのも見事だった。寄り添うことの意味や大切さを描き、辛くない人間なんていない、それでも皆生きていくという、最高のまとめ方だった。男も女も関係ない、人として・・である。
◆秀逸な脚本
先週の家宅捜索の後で、はるが「こういう時こそきちんと記録しておかなくちゃ」という形で日記を書くシーンがあった。寅子は事件を報じた記事をスクラップしていた。そして、ナレは「猪爪家の長い戦いが始まった」とも。
はるに日記をつける習慣があることを今までにきちんと描いてきた脚本を、私は誉めた。また、寅子の記事(明律で法律を学ぶ女子)を嬉しそうにスクラップしていた直言を描いていた脚本も、私は誉めた。過去の小さなシーンの積み重ねにより、現在のシーンに重みが増していた。上手い脚本だと。
今日の放送を見て、それだけではなかったとわかったので、誉めるしかなかろう。はるの日記も寅子のスクラップも、ナレの言う「猪爪家の戦い」を記録するものであることには違いないが・・はるの日記に関しては「これからの記録」だけでなく、「これまでの記録」が意味のあるものだったのだ。
やられた。完全にやられた。はるの記録(日記)シーンを、寅子の事件記録(スクラップ)シーンとナレの「長い戦い」という言葉と同時に描いたことにより、はるの日記の持つ意味を「これからの戦いの記録」だと解釈させたのだ。
そして今日。直言の自白が嘘であることを証明するものとして、再びはるの日記を登場させたのだから、やられたと言うしかない。しかもそれは「主婦之手帳」であり、まさしく戦わずにスンッと生きる人生を選んだはるの、主婦のささやかな武器(直言の台詞「母さんはな、父さんに読んでほしい時は手帳を開けてあるんだ」)でもあったのだ。
「戦わない女=家族を支え、家庭を守ってきた主婦」はるの日記が、法曹の敵(←自白してしまった)と戦うための武器になった形だ。戦う・戦わないのくだりを丁寧に描いてきたのも、やはり随所随所で効いてくる。今まで度々「上手い脚本」と評価してきたが、今日は初めて「秀逸な脚本」と評価したい。
◆寅子の戦い。法曹・家族・同志。
初回から1ヶ月。ヒロイン寅子を中心として、家族の話と、法律を学ぶ同志たち(女子)の話を描いてきた。男子が加わり、恋ばなを匂わせたところで、父直言の逮捕を描いた。上手い展開だ。法曹界という女子にとっての「地獄」の道を進む【寅子の戦い】を描くのだと勝手に思っていたのだが・・そうではなく、ここで【猪爪家の戦い】を持ってきたのだ。
そのことにより、フェミドラマではないことがわかる。ヒロイン上げドラマでないこともわかる。コメディーでないことも(←どこを見たらコメディーと思うのか、私には謎だが苦笑)。
無力だと痛感し、情けないと嘆く寅子の姿を描いた。そんな寅子を励まし、寄り添い、頼りになる優三の姿を描いた。迷惑をかけたことを謝罪する寅子の姿と、寅子のために結束した同志たちの姿を描いた。まだ何者でもない寅子だからこそ描けたシーンの数々。そしてこれらの仲間たちとの絆や信頼関係を、例えば舞の学生生活のように「若者たちの青春物語」という軽いものではなく、「戦い」が根底にあるものとして描いているところに、脚本の上手さが見て取れる。また、岡部たかしの存在意義がある。俳優を活かすも殺すも脚本次第。前作で殺された岡部が、今作で魅せる演技はハンパない。この事件エピがいつまで続くのかわからないが、重厚で見応えのあるシーンが見られそうで期待大である。
~キャラ設定とストーリー展開の上手さ~
脚本に星★★★★★
・穂高教授
法律や法曹界の変革に熱い思いを持ちつつ、甘くない現実を客観視できる冷静さも持つ。天然な面と、たぬき親父的な面がある。これらのキャラが寅子との関係性に変化をもたらし、ストーリーを動かしている。
①寅子が法曹界に入る→②挫折して、法曹界から逃げる→③家計のために復帰し「スンッ」としていた寅子が、本来の「はて?」を取り戻す・・全て、穂高がきっかけ。上手い脚本だ。
・桂場判事
法曹に関するスタンスは、穂高と似ている。性格的には、人間味溢れる穂高と比較すると、桂場はいわゆる「ツンデレ」。そして彼もまた・・①はるが六法全書を買い、寅子の法曹界入りを後押し→②挫折に至る前触れ「寅子の怒り」をいち早く察知→③復帰後「はて?」を取り戻した寅子に即反応し、「穂高が背中を押した」と発言・・①の法曹界入りアシストと、③の復帰する職場を与えたのは桂場。②③で、彼が寅子のことをよくわかっていることが描かれたが、その前に「裁判官に向いている」発言も。よく練られた脚本だ。
・花岡
優しくて、真っ直ぐで、不器用な男だった。寅子の志を尊重し、プロポーズしなかった優しさ(できなかった弱さ)は、「梅子の受け売り」で寅子を励まし、自分の苦悩(自分と法の正義の乖離)を話すことなく去っていった姿に繋がる。
・轟
彼もまた優しくて、真っ直ぐな男だが、クールな花岡と対照的な熱い男である。花岡に対して、友情以上の感情があったと描いた脚本。納得である。第十四条【すべて国民は、法の下に平等であって・・(中略)差別されない。】・・これを描いた今作において、轟のキャラ設定をあえてこのようにしたことに意味があるのだ。
戦前「困っている人を救い続けます。男女関係なく!」「一緒に変えていきましょうよ」と世間に向けて宣言し(←記事を書いたのは1社だけだったが)、戦後の会議では「尽力しましょうよ」と法曹界の面々に呼びかけた寅子。戦争のおかげではなく、自分たちで手に入れたかったと言った、よね。
今作は「法曹と、その時代に生きた人々」のドラマとして、現代に生きる視聴者に向けて作られている。つくづく見事な脚本である。轟のような人がいてもなんらおかしなことではないのに、はて?今もなお一部から「気持ち悪い」という声が出る現状。100年先はどうだろうか。弱者や少数派が生きづらくない世の中になっているだろうか。法整備はもちろんだが、我々一人一人の意識が問われている。
・よね
公私共に「女」を封印し続けている。よねだからこそ、轟の花岡に対する特別な思いに気づけたのだろう。これも「よねのキャラ設定」の上手さ。生きる希望だった花岡を失い絶望していた轟を、寅子という同志を失ったよねが救い、タッグを組むことに。ツンデレよねの「態度の悪さ(笑)と優しさ」&復活した轟の「ストレートな物言い」・・最高のコンビかよ!笑。痛快な展開に、胸が踊った視聴者も少なくないだろう。
・そしてライアンと多岐川
クセ強キャラ&クセ強俳優(笑)。いよいよ家庭裁判所設立→寅子裁判官誕生に向けて動き出した。期待しかない。魅力的なキャラ設定と、それらを演じる俳優たち、そして主軸を外さないストーリー展開。「虎に翼」の強みであり、支持される要因であろう。
◆花岡の決断と、友人2人
2人だけのお祝いディナーのシーンで、花岡の思いに気づかずに今後の抱負を語る寅子と、そんな寅子を見てプロポーズを断念した花岡を描いた。最後の「ありがとう」と、背中越しに挙げた手に、思いを断ち切った彼の心情がよく表現されていた。
のちに、婚約者を連れて現れた花岡に対する、轟とよねの男気溢れる描写。また、花岡の思いを聞いた2人にそれ以上は彼を責めさせなかった脚本。そして轟に対して、花岡に「ありがとう」と言わせた脚本。3人のブレないキャラ設定と、脚本家の登場人物への愛を感じるシーンだった。
◆寅子の地獄の日々と、時代背景
帝大教授の書籍弁護エピや、久保田の「女性弁護士初法廷」エピ。寅子の仕事ぶりや心情を描くと同時に、社会情勢(戦争)を描いたエピになっていた。竹もとの「時勢により品書き限定」を知らせる張り紙や、戦争関連の新聞記事など丁寧な演出もあり、その時間経過の描写が、寅子が弁護を断られ続けた「地獄の日々」を上手く表現していた。
◆寅子の結婚と、両親の反応
法廷に立つため、「社会的地位を得るため」に結婚を決意した寅子だったが、脚本家は寅子自身に「くだらないこと」だと言わせている。また、はるには「普通の結婚ではない」とも。それでも「娘はかわいい」し、「自分たちがいつまでも生きていられるわけじゃない」から、結婚してほしいという親心を描いた。
優三も「社会的地位を得るため」だと思い込んだ寅子の「この手があったか」と、2人から報告を受けたはるの「その手があったか」・・笑。そう、恋愛の末の結婚ではないのだから、まさに「この(その)手」である。元々朝ドラの恋ばなには期待していないが苦笑・・恋愛音痴の寅子が急に恋愛脳になって結婚と描いていたら白けていただろう。全ては、去っていった同志の思いに応えて、弱い者を救う弁護士になるため。寅子らしい結婚だった。法服姿で階段を上る、キリリとした表情の寅子(脳裏には海での回想シーン)。花嫁姿で結婚写真を撮る、笑顔の寅子。この対比も上手かった。
◆優三の思いと、寅子の反応
寅子に合わせて、「独り身は肩身が狭い」から結婚したいのだと優しい嘘をついた優三。はるに「うまみは何か」と聞かれて、「両親を亡くした僕にとって、猪爪家の皆さんと家族になること」だとも。優三の有難い申し出に深々と頭を下げたはると直言だったが、優三が寅子を大切に思う気持ちを知ったら、更に感激することだろう。
そして、初夜に初めて思いを寅子に伝えて眠りについた優三と、予期せぬ告白に頭が混乱し「はて?」の寅子。いい!笑。今後、寅子の優三への思い(の変化)がどう描かれるのか楽しみだ。
◆見事な構成力と、ストーリー展開
月曜の冒頭シーン。弁護士を諦め、直言の会社に就職した優三が、寮に入るために長年お世話になった書生部屋を丁寧に掃除していた。その後、いつでも来てねと送り出す猪爪ファミリーの姿と、互いの前途にエールを送り握手を交わした寅子と優三の姿があった。そして金曜に、2年半経過し、寅子と結婚した優三が猪爪ファミリーとなったことを描いたわけだが。途中で、寅子が興奮して裁判の報告をするも、日記をつけながら聞き流すはるのシーンがあり、「不完全燃焼」の寅子が書生部屋を見つめ「優三さんがいてくれたら・・」と呟くシーン(ナレ代弁)があった。上手い描き方だ。寅子にとって優三は、以前に台詞にもあったが、最初から「家族」だったのだろう。そして、そばにいてほしい存在だったと。おめでとう。2人に幸あれ。
今週も登場人物一人一人の心情を丁寧に描いた、見応えのある「人間ドラマ」だった。来週も楽しみだ。
寅子は成長している。
最初の頃はまだ女学生、卒業前に結婚するのが良の風潮も結婚が女性の幸せと言われるのも
“なにか違う…”とモヤモヤ。でも何故そう感じるのかはわからない。
親友と兄の結婚で、結婚式での女性たちの振る舞いにますます “何でなんだ?” と腹が立つけど
まだモヤモヤのまま。
そんな中、法学部に弁当を届けに行って耳にした「女は無能力者」に思わず「はぁ?!」
教授が「続けて」と促してくれ、疑問を口にする事ができ、授業を見学したことで
「すっきりはしなくてもはっきりした」
法を学び始めて傍聴に行った民事裁判で、結婚した女性の権利の無さに怒り、
女性の立場や財産を守りたいと決意、母や親友に「私が守ってあげる!」と宣言する。
この時父が「俺は守ってくれないのかぁ」と言ったことが、後にあんなに意味を持つとは。
父が巻き込まれた事件を経て、必死で立ち向かう中 “不条理は女性だけではない” と知り
大きな政治的社会的問題に直面する。この時点で “女性を救いたい” からさらに成長する。
そして高等試験合格を共に目指してきた学友たちのあまりにも残念な離脱。
最後に思い出をと海に訪れた時、友に請われて歌った歌は、
親友と兄の結婚式での捨て鉢な歌い方とはまったく違う、友を励まし元気づける明るい
歌い方だった。
この数年間で大きく成長した寅子は、最初の頃と話し方もまったく違う。
思ったことを捲し立ててしまうことも無くなり、場の状況や相手の思いもしっかり考えて
発言を控えたり、より適切な言葉を選ぶようになっていった。
「スン」と黙ってしまうのではなく、慎重に自分の発言に責任を持つようになっていった。
それに伴い、モヤモヤした心の声を表していたナレーションも落ち着いてきた。
寅子の知識や理解が深まるにつれ、知る世界が広がるにつれ、寅子の頭の混乱が減り
信念が定まってきていることがわかる。
祝賀会での演説に、この間の寅子の成長が本当によく表されていた。
昭和14年、これからますます困難な事態や社会情勢が訪れることは予測できる。
その度にまた悩み苦しみ悔しがるのだろう。そして、必死に努力しさらに成長していくのだろう。
◆太郎&次郎
新潟三条支部唯一の弁護士。「よそ者判事」寅子を懐柔し、法による裁判ではなく、「持ちつ持たれつ」で揉め事を解決しようと画策する。高橋克実&田口浩正の怪演が光る。キャラ設定に基づいた、キャスティング・演出・演技が見事にハマっていた。
弱者に寄り添う「心証による判決」と、権力者に有利な「持ちつ持たれつ」では、180度意味合いが異なる。しかも、前者が法律に則ったものであるのに対して、後者は法律を蔑ろにしたものであり、寅子でなくても看過できないのは当然である。まぁまぁまぁまぁ、悪いようにはしないらて~で丸く収めるのは、弱者を救えないどころか、守られるべき権利や尊厳までも踏みにじることに繋がってしまう。
◆高瀬と寅子
懐柔作戦にノッてこない寅子に舌打ちし、苦々しく思っていた杉田兄弟。そんな時に、温厚な高瀬が裁判の申立人である名士に暴力を奮ってしまう。ここぞとばかりに「悪いようにはしないらて~」と、裁判における取引を寅子に持ち掛けてきた太郎だったが、屈しない姿勢で臨んだ寅子を見て、後出しジャンケンの「新証拠」を提出し、妥当なところで手打ちにしたのだった。
裁判における痛快判決を描かなかった脚本家。今回の法曹パートの主軸は「持ちつ持たれつ」を拒否し、法律に則り判決を下す姿勢を貫き通した寅子と、弱者に寄り添い、救う決断をした寅子だった。最初は「波風を立てないで」と言っていた高瀬が寅子によって覚醒し、共に「本来の裁判所のあり方」を目指して動いた。その後、寅子が高瀬に下した処分は、あるまじき行為に対するまっとうな判断というだけでなく、彼の今後の立場や尊厳を守るためという判断でもあった。
これこそが弱者に寄り添う法律家であり、寅子が目指してきたものである。弱者=今回は申立人ではなく、書記官だったというわけだ。弱者の心を傷つけ、かさぶたを剥がす行為や連中に対して、寅子が久々に吠えた。高瀬と寅子、2人の会話や関係性の変化を丁寧に描き、単なる法曹ドラマとは違う見応えある「人間ドラマ」になっていた。
◆航一と寅子
高瀬が兄の死を受け入れられていないことや、理解されないであろう相手に対して壁を作っていることを見抜いた。それを聞いた寅子の「まるで自分のことを言われているようでした」・・多くを語らない、いや語らなすぎ(笑)のキャラ設定が見事に効いている。【持ち持た弁当】を「結構です」の一点張りで拒否した航一は、高瀬に対する無神経発言を繰り返す次郎に対して、淡々と冷徹に正論を吐いただけ。それが寅子に気づきを与え、高瀬との関係&優未との関係に変化をもたらした形だ。よく出来た脚本である。
航一にとって寅子は、亡き父の思い「民法は国民のもの」を共有した同志であったが・・今回の「持ちつ持たれつ」に屈することなく、法律に則り、弱者に寄り添う裁判所・判事であろうとする姿を見て、より一層同志感を強めたと共に、家で泣いているらしいと気づいたり、来訪が増えたりと、「心配」の対象になったようだ。多くを語らない男の言う「諦めが悪い」・・法律家としても、人としても、寅子にとって最高の褒め言葉である笑。
◆優未と寅子と優三と
新潟に来てもスンッのお利口さんを続ける優未。時間はかかって当然だし、苦悩する寅子の姿も丁寧に描いていた。徐々に距離が縮まる過程をどう描くのか楽しみにしていたのだが・・見事だった。優未の「31点」は、いくら勉強してもテスト本番でお腹がギュルギュルなってしまうからだと。完全にやられた!誰が予想しただろうか。父優三も同じだったと聞き、嬉しさを爆発させた優未。もっと聞かせて!という優未に、これで一気に距離が縮まるのかと思いきや、何も言えずに話を切り上げ、夜中一人で涙する寅子。そうか、寅子自身が「まだ無理」だったのだ。航一の言葉で客観視することができた寅子だった。
そして、次は・・寅子に救われた高瀬がくれたキャラメル。「美味しいもの、一人で食べてもつまんない。今一緒に食べたい・・でも夜だからダメだよね」・・ノビノビ&お利口さんのミックス。かつて優未が花江に「私も(お土産)食べたい!」と言った時のナレ「花江の前ではノビノビ、寅子の前ではお利口さん」を見事に回収した形だ。優未の変化と、揺れる気持ちをよく表していた。当然ながら、キャラメルの魅力がもたらした変化ではない笑。あのデキル母が「仕事に行きたくな~い!」とジタバタやっていた姿を目撃してしまった優未・・という過程もきちんと描いていた。
寅子の返事は「・・一緒に食べましょう」・・こちらも一瞬の間が、変化と心情をよく表していた。2人でゆっくりキャラメルを噛みながら、優三に想いを馳せる寅子。あの名台詞・名シーン「美味しいものは2人で」が、母子の関係修復の過程でも活かされるとは。計算され尽くした脚本である。
優三のことを優未に話し、ギュルギュル対策に有効な変顔を見せた寅子だったが・・優未に「これでもう大丈夫!お母さんありがとう!」と言わせなかった脚本にアッパレ。そんな「優等生・お利口さん」台詞を言わせていたら・・全てが台無しだ!と私は批判していた笑。この緻密に計算された脚本がそんなことをするはずもなく・・見たことがない母の姿(変顔)に戸惑い気味の優未と、「無理に笑わなくていいのよ」と優しく柔和な表情の寅子で締め、また次に繋げた。今週もよく出来たストーリーだった。来週も楽しみだ。
緻密に計算された脚本★★★★★
・登場人物を完璧な人間として描いていない。
・寅子=正しいとは描いていない。不自然なヒロイン上げをしていない。
◆多岐川のキャラ
破天荒で熱血漢。理想を追求する男。
闇米を食べることを拒否し、結果として命を落とした花岡に対して「大バカ者だ」と言ったのは、【命あってこそ】だという強い思いからであり、今も昔も変わらず、多くの人に共通する思いであろう。意志のある死は時として(本人の意図に関係なく)尊ばれたり美談にされたりしがちだが・・そうではないのだと描いたことは評価に値する。ただ、花岡が苦悩しながら職務を全うしたことは、彼の真っ直ぐな性格をよく表していたし、彼の人格そのものを否定した台詞でないことは明白である。
また、死刑判決を下すことが嫌で苦悩した挙げ句、刑事裁判から退いた(逃げた)多岐川を正しいとは描いていないところもいい。彼は孤児たちが自分に手を差し出す姿を見て涙し、子供たちを救うことに一生をかけようと誓ったのだった。
花岡の苦悩と、多岐川の苦悩。与えられた仕事から逃げなかった者と、逃げた者。共通しているのは、法律=正義に苦悩しながら、声を上げなかったこと。どちらが正しいとも、両者共にこうすべきだったとも描いていない。そこがいい。どちらも生身の「人間」としての弱さや葛藤を描いており、「人間ドラマ」に相応しいキャラ設定及びエピソードになっていた。
そんな多岐川は「自分に似ている」と評した寅子と出会い、理想の家庭裁判所を作るために、二人三脚・夫婦付随(笑)で邁進し、結果を出していった。このまま二人の快進撃が続くのかと思ったところで、桂場の神人事。地方で経験を積み、土台を固める寅子だけでなく、相棒を失った多岐川もまた新たな学びがあり成長することだろう。全ては「穂高イズム」を継承する4人が掲げる、法曹界の改革と理想のために!である。
◆はると花江のキャラ
スンッと生きる結婚を選んだ彼女たちも、完璧な人間には描いていない。慈悲深く、母性的なはるだったが、道男に対して「なんであんな目で見てしまったんだろう」と最期まで後悔するほどの大失敗をしてしまった。花江は昔から溜め込み、爆発させる癖がある。2人共に、その弱さを含めて、とても人間的なキャラ設定にしてあるのだ。そして、スンッと生きる彼女たちと、はて?と生きる寅子。専業主婦として家庭を守る彼女たちと、法律家としての使命を見つけた寅子。どちらにも苦悩があって当然だし、それぞれ大変なシゴトだと描いている。そして誰もが「完璧な母」である必要はないと描いている。どう向き合うかということ。今日の手紙のシーンでも描かれた。完璧な母親になろうと気負う寅子と、わかってないなぁと言う花江。「わかってないなぁ」は花江の口癖なのは言うまでもない。直道とセットで「わかってる」夫婦である笑。寅子が何に気づき、どう優未と向き合うのか、楽しみだ。
◆構成力&脚本力が光る
第1幕「明律大学編」は、理不尽な法律を変えようと地獄の道に飛び込んだ同志(寅子・よね・梅子・香淑・涼子&玉)たちの物語。このまま「女弁護士5人と玉」という、いわゆる痛快法廷劇を描くのかと思いきや・・甘かった笑。5人の別れと、「逃げだした」寅子があり・・第2幕「東京判事編」は、新憲法(民法)のもと法曹界の改革を目指した同志(寅子・多岐川・ライアン・桂場)たちの物語。と同時に、かつての同志+轟をも描く。台詞や心理描写は計算されており、見応えがある。第1幕で彼らのキャラを丁寧に描いてきたのが、第2幕でも活かされた。寅子が女子修習生たちに天狗発言をした時、すぐに気づいて後日寅子に改めるように進言した梅子だったが・・かつて花岡が改心した(最後までその言葉を忘れなかった・・涙)時も、決して相手を責めない梅子の性格をよく表していた。梅子だけでなく、一人一人のキャラが確立しており、ブレがないのは見事。
1幕2幕どちらにも登場し、彼らを導き、影響を与えたのが穂高。そんな穂高も完璧な人間として描かなかったのも、脚本の上手さ。明律大学では「君たちには法曹界を変える力がある」とエールを送り、引退前には「後は若い者に任せたよ」と安堵した表情で。いつの間にか理想と現実が乖離してしまっていた穂高に対して、もし寅子がスンッとしていたら・・ついに寅子も「優等生」「お利口さん」になったかと、ホッとした視聴者もいれば、らしくないと脚本の迷走ぶりを心配した視聴者もいただろうと推測する。
人間はいくつになっても失敗するし、後悔もする。穂高然り、はる然り、寅子然り。成長していないのではなく、それが人間。はるの描写を、道男に「ごめんね」と言わずに、ぎゅっと抱き締める形にした。寅子の描写を、穂高に「すみませんでした」と言わずに、「先生の教え子であることを誇りに思います」にした。両者とも前段階で、後悔反省する様を描いた後に、である。謝罪の言葉があれば、相手に対しても一部の視聴者に対しても「完璧」だったかもしれないが・・失敗そのものを描いたことは何の問題もない。「私、失敗しないので」というキャラ設定の某ドラマでない限り。
穂高の描写を、「悪かったね」と寅子に詫びる形にしたのは、乖離を認めた潔さと、器の大きさを感じられる描き方であり、法律家としても人間としてもリスペクトした描き方だった。更には「これ以上嫌われたくない笑」という茶目っ気ぶりまでプラスされており、やはり脚本の上手さが光った。何より、スンッとせずに本音でぶつかってくる寅子を評価し見いだしたのは穂高であり、最後まで自分に対して本音でぶつかってきた寅子に対して、嬉しく思う部分は少なくないだろう・・という穂高の心情を考えると、問題ないどころか、とても意味のあるシーンだったことがわかる。直後に4人が「穂高イズム」を再確認し、結束したことにも繋がっている。
そして、法曹パートだけでなく家庭パートも描くことで、より身近であり、より深みのある「人間ドラマ」として成立している。先週の「家族会議」について、感想が飛び交ったのも納得である。寅子は完璧でも特別でもない。それでいいのだ。いや、それがいいのだ。それはドラマ当初から一貫しているし、オープニングにも表れている。人間も法律も・・時代と共に変わるモノと変わらないモノと・・100年の物語はまだまだ続く。失速知らずの虎翼。今週からの「新潟編」も楽しみだ。
◆梅子を巡って
大庭家の相続問題を題材にして、法曹ドラマとホームドラマの両輪を成立させた脚本。よくできたストーリー展開だった。梅子を救うのは寅子か?轟&よねか?と思わせておいて、実際に救ったのは「新民法」だった。「家族は扶け合わなければならない」を逆手に取っての、梅子自らが導き出した解決方法。息子たちを夫のような人間にしないために、親権を得たい、法律を学びたいと秘めた思いを語っていた梅子。夫のせいで試験を受けることができず、その後倒れた夫の介護と姑・息子たちの世話で10年を過ごし、相続問題で改めて浮き彫りになった自己中家族に心を痛め、唯一の救いだった光三郎にも裏切られた彼女が出した結論と、「ご機嫌よう!」の晴れやかな表情。光三郎の「大どんでん返し」と、そこからのこの痛快な展開、誰が予想できようか。
しかも、梅子を救った第730条は、超化石人間神保教授vs柔らか頭ライアンらによる会議で、「出戻りスンッ」から脱却した寅子が、民法をどう使うかは国民次第、信じてみましょうと纏め上げたものだった。この繋がり(伏線回収)の見事さには唸るしかない。妻として母として女性としての梅子の人生を描きつつ、本筋である法曹を外さない脚本にアッパレ。
◆花江を巡って
これも法曹ドラマとホームドラマの両輪である。「孤児たちの預かり先を探す・問題児を更正させる」という、寅子の家庭裁判所での仕事と、道男の一時預かり先であった猪爪家での交流や、家族の変化を描いた。
はるが亡くなって2ヶ月弱。猪爪家でご飯を食べながら、仕事の話をする道男。「また逃げ出したか」とかつて家庭裁判所を困らせていた彼が、逃げ出すことなく真面目に働いていることがわかる。たまにはトラちゃんちに行ってこいよと、快く送り出してくれる大将の人柄が読み取れる。道男が猪爪家の面々を家族のように慕っていることも読み取れる。
そして、花江の嬉しそうな顔と、考え込むような顔。昼ドラ頭で観ていると、惑わされてしまうのも頷ける。が、そんなわけはなかった。寅子のラジオでの「誰かの犠牲になるのではなく、女性自らが幸せを掴み取ってほしい」発言や、自分のための新しい人生を歩み出した梅子との会話により、花江は覚醒する。手をつき、頭を下げて「お願い。手抜きをさせてください!」・・そう来たか笑。ここで花江に「第730条。家族は扶け合わなければならない」と言わせる脚本なら、私は誉めない笑。きちんと花江のキャラに則していて、完璧だった姑はるの生き方へのリスペクトも感じさせる、考えられた台詞だった。しかも、母の幸せを真剣に考えた息子たち(大庭家の息子たちとの比較。涙)と、道男が来ると花江が嬉しそうだったのは夢に直道が出てくるから(!やられた笑)と上手くまとめた。
◆りつ子を巡って
愛のコンサート(←広報活動)に誰が出るのか。コロンコロンレコード&福来スズ子の名を出し、前作を絡めてきた脚本。同じ時代であり、遊び心があっていいと思うが、スズ子が出たら「ちょっと残念」と書こうと思っていた。周りの助言を聞かない自己中に描かれ、常にコント口調のヘンテコ大阪弁に仕立てられたスズ子が登場したら、「虎に翼」の世界観が台無しになってしまう。「愛のコンサートでっか!うちの娘、愛子いいますねん。アイコー!どこ行ってんやろ?」では、ダメなのだ。
が、茨木りつ子だった。よかった。彼女なら台詞にあった通り、仕事への情熱といい、子供を預けて働くスタンスといい、寅子と通じるものがある。落ち着いた口調での会見もよかった(←スズ子のキャラ設定では無理)。寅子との相性も、ライアンとの雰囲気もよかった。「新旧ヒロイン共演」という話題性で美味しいだけの遊びを選ばなかった制作陣に拍手。
◆秀逸な脚本演出
梅子&光三郎のまさか!と、花江&道男のまさか!?という、ドラマを盛り上げたエピ(「まさか」のニュアンスの違いは、虎翼ファンになら通じるだろうから割愛するが)。そして、それらが描き出したモノ(=制作陣が描きたかったこと)。梅子エピも花江エピも民法改正審議会で描かれた、第730条に基づく【家族と個人の幸せ】について描いたのだった。更に「家族の幸せ」を第一に考えていた、はるのことも思い出させる描き方だったし、男=大黒柱として家族のために自分を犠牲にしようとした直明のエピとも繋がっている。
また継続して、寅子の仕事ぶり(公)と、家族やかつての同志たちとの関係(私)を描いた。愛のコンサート大成功の打ち上げで「モンパパ」を歌う寅子。その歌声に被せて、それぞれ「梅子のオニギリ」を食べる香淑と、よね・・という脚本演出で、また次に繋げた。今週も上手い展開だった。来週も楽しみだ。
~全て繋がる、緻密な脚本~
◆「香子ちゃん」を巡って
新キャラ多岐川の登場早々に「香子ちゃんが待っている(から帰ろう)」と言わせた脚本。破天荒な多岐川ゆえに訳アリかと匂わせておいて、後日「香子=香淑」と明かす。そして「ヒャンちゃん!?」と驚く寅子に対して、「その名前で呼ばないで!」・・同志だった2人の衝撃の再会を描いた。
ここからの展開も見事だった。①理解できない寅子に対して、はるが直言との結婚時の体験を語り、「生きていくには色々ある」②香子について説明しようとした汐見に対して、「ヒャンちゃんから聞きたい」と言った寅子だったが、これは香子の意思であると告げられる③約束を果たせなかった過去から、今度こそ「ヒャンちゃんを助けたい」と言う寅子に対して、多岐川の「いま君がやるべきことは、全ての時間を【家庭裁判所設立】のために費やすことだ!」
「ヒャンちゃん」との再会を描きながら、寅子が彼女を助ける「感動エピ」にせずに、①はる②汐見③多岐川を使って、寅子のアクションを封じたのだ。本筋(家庭裁判所設立)を外すことなく描き、かつての同志(と)のエピも進め、また次に繋げた形だ。脚本の上手さが光る。花岡との再会も、そうだった・・。
◆花岡を巡って
花岡との再会と彼の死は、同志であり特別な関係であった「寅子と花岡のエピ」として描いたわけではなかった。花岡の苦悩に気づかずに、止めることができなかったと寅子が花岡夫人に謝罪していたが・・彼の苦悩に気づきながら、止めることができなかった桂場もいる。法曹界の人間が法律に縛られ命を落としたことに「大バカ者だ!」と嘆いた多岐川もいる。
桂場と多岐川が花岡夫人の絵画を買い取っていた。彼女や花江よりももっと助けを必要としている女性たちがいると、桂場は言った。帰国後に孤児たちの姿を見て、生涯かけてやるべきことが見つかったと、多岐川は言った。花岡夫人は寅子に「子供たちのために頑張りましょう」と言った。そして混迷していた設立会議を動かしたのは、多岐川が立ち上げた「子供たちを救う活動」をしていた直明のキラキラ!=「純度の高い正論」だった。
家庭裁判所に飾られた、花岡夫人の絵画。チョコレートと、家族の幸せな笑顔の時と、花岡の死がもたらした「戒め」・・多岐川の「愛の家庭裁判所」設立にかけた熱い思い。【花岡エピと家庭裁判所設立】を見事に描いた脚本に感服。
◆寅子と登場人物の描き方
いい。凄くいい。どこにも寅子アゲがないばかりか、寅子と絡む複数の登場人物によってストーリーが動かされている。そして全てが繋がっている。寅子はもちろん、各々の心情もきちんと表現されている。多岐川の「逃げ出した過去」と「新しく見つけた、生涯をかける道」。そして、佐田くんは自分に少し似ていると語ったと。
寅子を導く人物として、穂高と桂場だけでも充分に見応えがあったが、ライアンに続いて、この多岐川。ぴんぴん体操と、孤児とのシーンの落差よ。桂場同様に、この緩急が効いている。ちょうだいと差し出された小さな手に対して、何もあげることができずに、空っぽで差し出した多岐川の手と、走り去っていく孤児たち。その時の多岐川の後ろ姿が凄い。さすが滝藤であり、演出(カメラワーク)が光った。「家庭裁判所の父」と呼ばれた多岐川の原点を描いた名シーンになった。
あの「花岡家の幸せの時」を描いた絵画で、実際に描かれていたのは笑顔ではなく「差し出された小さな手と、チョコレートを差し出す大きな手」であり、孤児と多岐川のシーンを後から描いたことで、観る者をハッとさせる効果絶大だった。多岐川の思いがより伝わると共に、ドラマが「寅子と花岡のエピ」を描いたわけではなかったことも理解できる。脚本・演出・演者ともに、今週も上出来だった。来週も楽しみだ。
◆見事なストーリー展開
寅子が優三の死を受け入れ、立ち直るまでをどう描くのかと水曜日に書いたのだが・・見事な展開だった。はるの計らいで闇市に→「ひとりでは」食べる気にならない寅子→屋台のオバチャンが手をつけられなかった焼鳥を包んで持たせてくれる→あの河原で、寅子「一緒に食べようって言ったじゃない!」(号泣)
息子と夫を失くしたはる、夫と義父を失くした花江、女一人で屋台に立つオバチャン。はると花江の「内緒の飲食」シーン・・あの1コマがあるだけで、2人が立ち直るまでを逐一描かずとも、視聴者は想像することができる。また、3人の寅子に対する言動からもそれらは伝わる。かつての優三の台詞を用いての、寅子の立ち直りストーリーが見事だったのは言うまでもないが、それと同時に「多くの女たちの戦後」を描いたのは流石だった。
◆日本国憲法と寅子
寅子が真っ先にしたことは「家族会議」だった。皆に新しい憲法を説明し、自分にとっての幸せとは何かと問い、寅子自身も答えた。そして、直明には「大学へ行き、学びなさい」と。上手い脚本だ。立ち直った寅子の「法曹の道、ふたたび」を描くより先に「家族の一員としての寅子」を描いたのだ。法曹ドラマとホームドラマのバランスの良さ。何より、寅子の「人として」の魅力が伝わる描き方をした脚本に拍手である。
◆秀逸な構成力
毎日15分の内容や、一週間の流れは勿論のこと、「連続テレビ小説」としての半年間のストーリー展開がやはり上手い。既にあちこちで称賛されているように、今週のエピが初回冒頭のシーンに繋がる形だったわけだが・・その手法なら、特別珍しいわけでもないし、実際前作もやっていた。何が違うか・・
今作は・・初回。寅子が河原で新聞を握り締めて泣いていただけで、どういう状況なのか全くわからなかった。涙のわけは優三の戦病死であり、新聞についたシミは「もう一緒に食べることができなくなった」焼鳥のタレだったのだ。そんなシーンだったとは・・である。
その後の桂場を訪ねるシーンも同じ。寅子が何者なのかさえわからなかった。弁護士?判事?というところから始まり(←完璧なツカミ)~その後、優三に弁当を届けた際の桂場との再会があり~またまたその後、甘味処でのバトルがあり~と続くわけだが・・今日の回を見て初めて「ここで桂場訪問か!」となった形だ。そして来週から「法曹の道、ふたたび」が始まるという、ワクワクしかない展開なのだ。
前作は・・初回。赤ちゃんを預けるシーンを描き、「ブギの女王」鈴子が歌うシーンを描いた。ゴール(←正確には、通過点)を先に全て明かす描き方だった。これだと「どういうこと?」という疑問がないため「知りたい!」という欲求は生まれない。「このゴールまでをどう描くのか見てみよう」とは思うかもしれないが、その時点で脚本家自らハードルを上げてしまった形である。更に、撮影の順番は不明だが、歌が本業ではない趣里に「完成形」を歌わせ、初回に披露してしまうという、趣里にとっても過酷で残酷な描き方だった(趣里はよく頑張っていた)。
で、初回冒頭のシーンに追いついた回に「今後の展開にズキズキワクワクする」となればよかったのだが・・残念ながら「これから何を描く?」と不安視する声がかなりあり、実際その後の失速ぶりに「アレで最終回ならまだよかった」という声も。明らかに構成の問題だった。
わかりやすい例として前作を挙げたのだが、同じ「初回冒頭に繋がる」手法でも、全く違う描き方だということがよくわかる。誤解なきよう・・初回で全て明かす描き方が悪いわけでは決してない。上げたハードルを見事に飛び越えてくれさえすれば、何の問題もないのだ。ドラマは脚本次第。役者を生かす(活かす)も殺すも脚本次第。失速せずにこのまま頑張ってほしい。
見応えのある「人間ドラマ」
◆美佐江と寅子
自分を「特別」だと慕ってきて、赤い腕飾りをくれた美佐江は寅子にとって、あの森口の娘であり、灯台塾(←東大塾じゃないよ笑)の生徒でもあった。その後、担当した傷害事件の被害者少年(←窃盗団だった)が同じ腕飾りをつけていたことや、彼の意味深な言葉から、寅子は美佐江に疑念を抱く。
ここからの寅子の描き方は見事だった。何の証拠も確証もなければ、何の権限もない状態で、イチ女子高生である美佐江に、判事である寅子が問いただすことの意味や重要性をわかった上で、判事としてというよりも、困っている人を放っておけない寅子の性分からの言動。寅子が美佐江にかける言葉や距離感からは・・美佐江を傷つけまいと気遣い、自ら話してほしいと願う様が繊細に表現されていた。そして、そんな寅子の思いを見透かし、そんなんじゃ私の心の扉は開けないわよとばかりに不敵な笑みを浮かべる美佐江。心を閉ざす理由がわかっていた道男や栄二と違い、美佐江は何倍も手強い相手だった。
窃盗団少年を切り捨て、売春少女を切り捨て、逃げ切った美佐江に寅子が一歩踏み込むと、ついに美佐江から核心をつく質問が。なぜ人を殺してはいけないのか、その理由を法律は定めていない。答えを教えてと迫る美佐江。答えられなかった寅子。いい加減な答えをしたくない寅子と、いい加減な答えでは満足しない美佐江をよく表していた。「一緒に考えていきましょう」と、美佐江に寄り添う姿勢を見せた寅子だったが・・優未の来訪。上手い脚本だ。以前の寅子だったら、「お母さん今手が離せないから、お利口さんしててね」と優未に言い残し、美佐江の手を取って部屋に戻っていたかもしれない。が、今の寅子は違う。考える間もなく、体が動いていた。咄嗟に優未を引き寄せ、抱き締めた。優未との関係修復と共に芽生えた、寅子の母性本能。全て計算され尽くした脚本なのだ。
はるも咄嗟の言動で、道男を傷つけてしまった。寅子もまた・・。綺麗事には描かずに、人間の性(さが)を繊細に描く、「人間ドラマ」に相応しいシーンだった。美佐江からのSOSに気づいていながら、救えなかった寅子。今後、美佐江との関係がどう描かれるのか知らないが・・どうすれば救えたのかと考え続けるだろうし、「家庭裁判所の母」として多くの子供たちを救った彼女にとって、美佐江は忘れられない子供として胸に刻まれることだろう。新潟編において、時間をかけて描いた美佐江エピの重要度。見事な構成力である。
◆航一と寅子と優三
美佐江の件で落ち込む寅子を心配し、家を訪ねた航一。出かける優未&稲と言葉を交わす、お向かいさん。ナレ説明がなくても、見られちゃってるじゃん!ということがわかる描き方。当然ながら、先日【航一の訪問を聞きつけて】杉田兄弟がやってきたことを裏づけるものであり、細やかな描写が光る。
沈黙だけど、いや沈黙だからこそ、癒された寅子。資料を読む航一の背中と、洗濯物を畳んだり、麻雀の練習(←ちと、うるさいがな苦笑)をする寅子・・丁寧な時間をかけての描写が、2人の思いを映し出す。
朝ドラの恋バナには期待していなかったが・・優三との恋バナで視聴者を魅了した虎翼ゆえ、大人の恋バナをどう描くのか期待大・・と思っていたら、さっそく。優三の寅子(&優未)への「愛」が詰まった手紙・・やられた。優未はいつ手紙の存在に気づいたのだろうか。「お父さんのこと聞かせて」と言った時には知っていたのだろうか。視聴者に想像させる、余白を残した描き方が素晴らしい。また、涼子も航一に言葉をかけていた。このワンシーンがあるかないかで大違いである。細やかな描写が光る。
◆高瀬&小野と、寅子
2人の「友情結婚」を聞き、「慎重に」と助言した寅子。最初に聞いた時は驚きつつも、喜んでいた。「友情」と聞いたことで、ざわついたのだ。愛していないのに社会的地位を得るために結婚をした、不純な自分を顧みてか。「友情」以上の感情を抱いている航一のことも頭をよぎったかもしれない。元々恋愛に不器用な寅子による精一杯の助言・・これも「良かれと思って」の言動だが、余計なお節介ではあった。
「慎重に」・・穂高の【無理解の善意】を反面教師として学んだとも言えるが、それでも似たようなものだった。これをどう解釈するか・・寅子も歳をとったということかと考えたりもしたが・・後日、慎重に考えて出した結論(=「やっぱり友達結婚します」)なら寅子が祝福するシーンが描かれるのだろうと思っていた。そしたら今日、完全にやられた。
優三の手紙が、寅子を覚醒させるとは。正しくない寅子を叱るのではなく、受け止め、許し、気づかせてくれた最愛の人。自分を信じて、自分の思いを大切に、悔いなく生きてほしいという優三の願い。最後の最後まで、自分がいなくなった後の、寅子と優未の幸せを願ってくれていた。一見すると優三の手紙は、航一への想いを後押しするためのものに見えるが、それだけではなかった。
友達結婚だと聞いた時に、「2人の決断を応援するわ」と言えなかった。それが正しいことか?結婚するのが当たり前、法律家よりも良き妻・良き母であるべき、母親はこうあるべき・・そういう世間一般の考え方に対して、自分はどう思っていたのだったか?と、かつての自分を振り返るきっかけとしても描いているのだった。自分の過ちを高瀬&小野に謝罪し、「好きなようにやったらいい!2人の決断を応援します」と最大級のエールを送った寅子であった。
「慎重に」の理由を改めて考えてみると・・【寅子が母親になった】からではなかろうか。寅子の中の母親としての部分が、世間一般の価値観を持っている2人の両親の思いにリンクし、「友情結婚なんて・・」と思ってしまったのではなかろうか。同時期に描かれた、美佐江から優未を守ったエピとも繋がる形だ。そう考えると、キャラ設定にブレもなく、展開(=母子関係修復と、母親としての寅子の変化)に沿った描き方として、整合性がとれる。緻密に計算された脚本だと言える。
◆脚本演出演者、三位一体で「人間」を描く
花江の来訪は、優未が助けを求めたからだった。以前から手紙のやり取りを描いていたことが、しっかり活かされている。陽気な宴からの~号泣寅子に寄り添う、花江&優未。この落差もいい。離れたことで、昔のような関係に戻れた2人。「もっと早くに言うべきだった」と、相手への感謝の言葉を素直に言うことができた。
公私共に、躓き、迷い、苦悩葛藤しながら、周りの人たちに支えられて、自分も困っている人を救うべく奮闘する寅子。人間は正しいばかりでなく、失敗もするもの。これらは虎翼が一貫して描いていることであり、ブレがない。この当たり前のことができない朝ドラがどれだけあったことか苦笑。虎翼が複数の演出家であることを問題視する声を見かけたが・・どの作品も複数(6~8人程度)の演出家が交代で担当している。脚本演出演者、三位一体で、ひとつひとつのシーンが丁寧に作られており、見応えのある「人間ドラマ」になっている。
スポンサーリンク