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101
名前無し
ID: FhRrilElw8 
2020-12-02 13:11:12

本格的なハードボイルド小説を完璧に映像化して欲しい。

102
名前無し
ID: FhRrilElw8 
2020-12-02 13:22:43

大映の暑苦しいドラマのリメイクも見てみたい。

103
■歯車  by星★
ID: rfSp94.ahg 
2021-01-03 13:17:01

 突然の投稿で恐縮です。余り面白いドラマがない中でこの掲示板を見つけたので(だから、試し書き的投稿で失礼ですが)因みに「by星★」はチャンネルレビューでのハンドルネーム。
 
 ●今のマンガ家の群像劇のドラマ。(キーワード「雑草の植物群と栽培植物群」)

 現代のマンガ家を「栽培された植物群」に見立て、その儚さを描いたドラマなんかどうだろう。
 最近のTVドラマ、映画など、漫画原作が多く、傑作が多いように思う。けど、どこか、儚い。そう思っている。創られた歯車、便利な歯車になってるような。

 (マンガ家say)「僕は、マンガ家という歯車になりたかったのだ、ただ、今は、サビた歯車になってゆく・・・」
 (編集者say) 「私は、時代にあったマンガ家という歯車をつくるだけなんだ」
 ・・なんて、マンガ家と編集者のセリフを典型としたドラマはどうか?
<発想の背景>
 最近の、社会現象としてのマンガの位置づけ、やマンガ作家の物語が面白そうだと思う(昔と今のマンガ家のイメージ「雑草の植物群と栽培植物群」が私のイメージだが)
 以前のマンガ家って、連載を何本も抱え、それぞれに色を変え、いわば、色々なことを試し、色々な所に根を張る「雑草」の様な気がする。
 最近のマンガ家って、連載を1本かかえ、それはその作家にマッチした「代表作」で勝負し、その連載後は、余り、記憶に残る作品が少ないように思う(事実と異なれば失礼)。

 この差のイメージが仮に正しいとすると、現在は、時代の需要によって、編集者が「マンガ家を作っていく時代」にシフトしているような気がする。
以前は、作家の才能を見出し作家を「育てていた」、今は作家の才能を見つけて、それを時代に合うように「作ってゆく」。だから編集者の指導による「代表作」を作って、それ以降は、小品を作っているのではないか。そんな、現在マンガ家の哀愁を描けば(詳細はここに書く余地がないけれど)、現在のマスの社会を投影するドラマになるような気がするが・・・。

ただ、これは、全く私の「フィーリング的マンガ家論」で(以前、漫画をよく読んだものだが、最近はほとんど見ていないので)
いわば、以前マンガ熱中人間で、現在のマンガに余り興味のない人間ということで、不正確かもしれないし、或いは「少し距離を置いた」視点での現在マンガ家及びマンガ論ということになるかもしれない。                以 上

104
■おちょやん異聞 by星★
ID: rfSp94.ahg 
2021-01-03 22:44:52

 朝ドラ「おちょやん」が余りに納得できないので、自分で勝手に情景を書いてみた。「こんなドラマ、あったらいいな」という掲示板を見つけたので拡大解釈してそれを示してみる。
 (ただ、この解釈は私の試行錯誤っぽいので、この投稿を削除すべきだと思う人がいたら削除は自由です。せっかく書いたので載せてみたい、というだけの話なので)

■「おちょやん異聞」・・2020年度末の大阪編末尾に
 おちょやんは船に揺られていると、この8年間の道頓堀の日々が船の上の夢の様な気がしてくる。そういえば、小次郎さんがあの時、自分を探し当ててくれなければどうなっていただろう、あの8年前が夢の始まりで、そして小次郎さんに送らてゆく今が、あの幸せだった夢の終わりのような気がしてくる。
 小次郎はん、と、千代は声をかける、どこへ連れて行ってくれるの?
 どこって千代ちゃん、あんなにきれいでも舟で空につれてゆける訳はないだろう?この川の後ろは海、前は京都、だから京都に決まってるじゃねえか。
小次郎はいつもバカにしたような言い方をする。それが千代は好きだ。そうすれば、千代も、思い切り生意気な口をきいて返事ができる。
千代は小次郎を口の悪いおじいちゃんのように思い慕っている・・あんな薄汚い、黒い月の様なテルヲよりずっと良い。
 小次郎は言葉を継いだ。ちょっと気取った町で、あたしゃ好きじゃないがね、
 好きじゃないところに私をつれてゆくの?
 千代だったら好きになるよ。そう小次郎は謎のような言葉をいった。小次郎の答えは簡単だ。それは、千代が人に好かれるから、だから千代もそこを好きになるだろう。
けど、そんなことは言わない、小次郎は、最後まで意地悪なおじいちゃんでいたいと思っていた。憎まれ口をききあう二人だから、別れる時はきっと、千代もせいせいする、自分もせいせいするだろう、それで良いのだと思っていた。それなのに、今、闇に紛れて涙さえでてくる。それは見られてはならない涙だと思われた。
涙の一としずが、櫓のあたりに落ちた。小次郎は、そのあたりの水辺を、櫓でかき回して舟を進めた。そして、そのうたかたの渦に千代の涙も混じったことには気づかなかった。
小次郎の声がとまった。千代は、沈黙に流れる優しさが嫌いだ。だから、いつも、はねっかえりなことを喋っているのだ。
 小次郎は実は、京都の大きな和服問屋の跡継ぎだった。それが、博打と女で身を持ち崩し、京都にいられなくなって、大阪に流れてきて、そこで、「岡安」のお家さんから何かと世話になった身の上だ。
 京都に足を向けることのなかった心だが、あれ以来、初めて京都に向かうのである。千代はあの町に好かれるだろう、ワシはあの町に嫌われてしまったが。・・・これで京都とも最後、千代とも最後、そう思いながら。

 本当に、今日は朝から大変だったのよ、と、ほっとして千代は言った。あのテルヲのやつにあやうく売られそうになったの、けど、みんなが私を逃がしてくれた。
小次郎がいなければ、この船は、また、さっきの船着き場迄流されてゆくのだと思うと、千代は小次郎を頼もしく感じた。
だから、こうやって小次郎といるととても幸せだった。そうして、これは、人から聞いていた「旅」のような気がした。
 道頓堀で、旅人を多く見てきたのに、千代自身は旅というものがよくわからなかった。だから、これが旅に違いないと思った。・・・
 おかあちゃんが見ていてくれる、お母ちゃんは月だから、千代がどこにいってもついてきてくれる、そして明るく照らしてくれる。
そして、テルヲは黒い月だ、闇夜の黒い月で人の足元を狂わせる。
 「おかあちゃん、なんでテルヲなんかと所帯をもったんだろう?」そうつまらなそうに独り言を言った。千代は自分が「根性悪」だと思っているが、それがテルヲ似だと悩んでいた。
 小次郎は「所帯」という言葉を聞き留めて、この子ももう人を好きになる歳になったのだと思った。

105
芳根杏子
ID: sUmppN0qc9 
2021-01-03 23:26:18

by星★さんへ
先日、おちょやん本スレで勘違い(他人と間違い)した者です。
その節は、大変申し訳ありませんでした。

レビューを拝見して・・
素晴らしい内容と文書力だと思いました。
興味を持って読まさせていただきました。

また、時間ある時に、お茶の間に書いていただけたら…嬉しいです。

106
■芳根杏子様 by星★
ID: qFL0.Pg7P3 
2021-01-04 00:02:23

 先日は、私こそ、言葉がきつかったのではと思っております。
 (言い訳をすれば、直前に、私に妙な投稿があったのでつい身構えてしまいましたというところです。因みに、その方も悪気はなかったと思うのですが、言葉のやり取りというのは難しいものです)
そして、ここでご意見をいただけるとは思わず、驚き、感激しています。
 私は、レビューやお茶の間での、アンテナの張り方がニブいので反応が遅く、つい長い文章を書くので、議論は手間取り、という欠点がありますが、また、何か(主張は違っても)意見交換できればうれしく思います。その時は、よろしくお願いいたします。
(「104」のような雑文でよければ、他の方の邪魔にならない程度であれば、と思います。)

107
芳根杏子
ID: B8gzIPWVO0 
2021-01-04 05:31:44

by星★さんへ
丁寧なお返事ありがとうございます。
私は主に「ドラマでも何でも語っちゃおう!」に書いていますが、他のどのスレに書かれても楽しみにしています。
また、内容的には、朝ドラ、大河ドラマは欠かさず見てレビュー書いています。

また、よろしくお願いします。

108
名前無し
ID: /eq5civDJ6 
2021-01-04 07:37:10

現在地上波で大河ドラマ除いて時代劇はNHKで制作しているが民放で制作していない、30数年前地上波でプライムタイムにて暴れん坊将軍や水戸黄門や必殺仕事などやっていた。時代劇の灯を消すな、地上波で時代劇の復活を望む。

109
■矛盾する?ドラマ by星★
ID: sny7tVpkZo 
2021-01-05 00:30:13

カッコ良い「女殺し屋」もので、二重スパイの「謎」「謎解き」「謎」「謎解き」が連鎖的に続き、いちおう、最後の結末はつくのだけれど、何故か、「だまされたのは、視聴者」ではないか?と最後に気持ちよく思わせるドラマ。

実は、これは、先日、DVDで見たリュックベッソンの「アナ」が面白かったので、同じような日本版が出来ないだろうか、と思ったから。
「アナ」では
1)「5年前」とか「3年後」とか時間軸のシフトが頻発し、例えば、ストーリーを追っていると、「・年前」と表示され時間が巻き戻り「あ、そういうことだったの?騙された!」となる。この「?」「!」が頻発する。
2)この頻発する「?」「!」で、解決したエピも、後でよく考えると「矛盾カナ?」と思う点が隠れている気がする(結局、製作者から視聴者を徹底的に楽しませる為、面白いシーン満載で「矛盾を厭わない」というドラマ)。

110
■おちょやん異聞2 by星★-
ID: sny7tVpkZo 
2021-01-05 12:38:07

 これは、「104■おちょやん異聞」の続きです。当掲示板「こんなドラマ、あったらいいな」の一つのバリエーションとして、「こんなドラマになったらいいな」の雑文もアリかなと思いつつあった私の心も、実際の「おちょやん」が、新年ますます理解不能な展開になっていて、揺らぎが増していますが、まあ、しばらくお許し願うとして・・・(因みに、この雑文は、朝ドラの、千代の道頓堀脱出の経過があまりに不自然なので書いた為、心理的な記載は抑え気味で、経緯を主に書いています。)

■おちょやん異聞2  ~道頓堀からの脱出~
 千代が舟で京都に向かっていたその頃、「岡安」は、てんやわんやがやっと収まった頃だった。
 年季明けの千代が逃げるのは十分考えられたので、千代にはいつも見張をつけられ、行動はヤクザに筒抜けだった。ヤクザは鶴亀にも話をつけていた。
 それなのに、この日、千代はというと悠長に芝居に出、挙句の果てに逃げてしまったのである。
-
 何日か前、他のシマのヤクザが道頓堀を荒らしていると聞いた時、鶴亀の社長は、怒っていた。ただ、お茶子一人の為に、つまらぬ騒動に巻き込まれたくない。
 他方、挨拶に来たヤクザの親分は、千代を「身受け」できなければ大損である、と息巻いている。
 この二つ顔を立てる方法が一つあった。鶴亀は言った「千代を見受けするのはワシの知ったことではないが、しかし、ここを荒らすのであれば許さない。」
ヤクザは、「千代は手に入れる代わりに子分どもも手荒なことはしない、若い連中が騒いだ時は、鶴亀社長が一喝すれば、騒ぎは収まるようにしておく」そう約した。鶴亀は「岡安」には泣いてもらおう、と考えた。芝居茶屋一軒を少し困らせておけば、それは、他への見せしめになる。

 ヤクザの嫌がらせで岡安は困った。気丈に振る舞う千代も一人になると泣いている。他のお茶子達も寄ってきてもらい泣きする。ましてお家さんがかわいがっていた千代である。岡安の昼行燈の旦那はヤクザが来ても「知らぬ顔」を決め込んでいるように見えた。しかし、この旦那、案外のクセもので、芝居好きが高じて、一計を案じた。店に押し掛けたヤクザには、千代の年季あけまでは勝手な事は困る、と気弱に対応するフリをした。
-
 もう一つ問題があった。宿泊している天海一座の千之助が何かと喧嘩を他の客にふっかける。一平は古株の千之助で何も言えないが、後継者の自分に従おうとしないので、役者としての盛りも過ぎている事もあり、追い出す潮時かと考えていた。ただ、何も言えない。それに、妙に千代のことを心配する自分に気が付き始めていた。また、須賀廼家万太郎は「笑えぬ喜劇と、笑える悲劇」が口癖で、常から鶴亀を面白く思っていないが、特に最近の鶴亀の傲慢さに怒っている。そして、役者仲間の天海一座には何となく仲間意識がある。そんな万太郎は、天海一座の千之助を昔から欲しいと思っている。

 ヤクザの子分の岡安への嫌がらせは続いていたが、鶴亀はそれを面白そうに静観した。そして、やくざの親分との約束通り騒ぎが少し大きくなると、顔を出し争いを収め、顔役ぶりを見せつけた。

 そんな中、旦那はお家さんの「顔」で、万太郎を呼んだ。ご寮人さんは、宿泊している天海の一平と、何かと世話焼きのオヤマもその席に呼んだ。
 旦那の計画で、役者に顔の効くお家さんから、千之助の行状を述べ、いっそ、千之助を万太郎が引きとってはどうかと提案した。一平に異存はない。 お寮人さんは、横から「岡安」も困っていること、加えて最近の鶴亀の横柄さも万太郎にそれとなく伝えた。
 すると、「誠に、笑えぬ喜劇と、笑える悲劇」だなと言って、千之助を引き受けることを約した。濡れ手に粟でもある。これで、万太郎も一平も共に得をする。
 翌日、オヤマは千之助が逃げ出すようそそのかす役だ。この話のあと、何ね、あたしゃ、万太郎さんに顔が利くんだよ、ちゃんと手を打っておくからさ、と千之助に、にやにやとして言った。

 さあ、そして、旦那は、残った問題の千代を逃がす為の手を打った。

111
■おちょやん異聞3 by星★
ID: sny7tVpkZo 
2021-01-05 12:46:43

 千代には見張がついているので、いったん千代を「岡安」から離し、芝居小屋に行かせる事にした。千代の事情を知っている一平も万太郎も義侠心から協力したいという、これで芝居小屋の方も問題ない。
 朝、芝居小屋に届け物をするだけなのに、カメは、忘れ物はないかい、お母ちゃんの写真もちゃんと持ったかいと泣きそうな顔をする。何よ、カメさん今は、今生の別れじゃないのよ、と笑ったが、いつも陽気なカメの真顔を見ると、千代は、それきり何も言えなくなった。カメの用意した真新しい衣装まで持たされた。
 届け物で芝居小屋に千代がつくと、事情を知っているオヤマは、千代を身売りの件で不憫に思っていたので、せめて道頓堀の良い思い出にと、急に、腰を痛めたふりをして、千代を舞台に立たせようとした。誰も、千代の芝居好きを知っている。一平は、オヤマの気持ちを察して、そして何より千代の舞台の上の姿を見たくて、それを後押しした。
 さて、そうやって何も知らず舞台に引っ張りだされ、芝居のあと、初めて事情を聴かされ、千代は、有難さと驚きで、それまで張っていた気の糸が切れて、泣いた。みんなが、と千代が言った。みんなが私なんかを逃がすためにこんなことをしてくれるなんて・・・・・そう言って、カメからもらった衣装を胸に抱いて泣いたのである。
 そして、千代の服を借り、千代のフリをした「身代わり」が岡安に返ってゆく。見張はそれを追って岡安に帰ったことを親分に連絡した。

 ヤクザは、さっそくやって来たが、安心しきっている。ご寮人さんは、もう年季があけた子のこと、好きなようにしなはれ、とワザと冷たく言った。言葉の裏には、ヤクザへの怒りと千代へのやるせない思いがあった。騒ぎを起こさぬよう、と言い含めて酒肴料まで渡してみせた。
 親分は、その金を受け取り、子分に渡し太っ腹のところをみせ良い気分である。
 「岡安」が話をつけていてので、酒屋、料亭は大歓待である。自分たちの出し合ったお金が戻ってくるだけだが、威張っているヤクザや鶴亀を出し抜けるので楽しくてたまらない。
 そうして、さて、千代の身代わりは「岡安」から煙のように消えてしまった。
 「岡安」はシラをきる。誰かが連れていかはったと思うてました、違います?それに、お酒代までうけとって今更、何を言うてはるんだす、と一喝する。千代の為に、本当に怒っているのである。その言葉に、ヤクザは何も言えない。
 他方、鶴亀は、千代のことなど、どうでも良い。駆けつけて来たヤクザは、千代を隠す程のことができるのは鶴亀しかいない、最初からそのつもりだったのだろう、と騒いでいる。鶴亀の社長は何も知ら無いことに言いがかりをつけられ怒りだした。事実、何も知らないのだ。鶴亀の子分どもも殺気立っている。こうして、ヤクザたちは道頓堀から退散する他なかったのである。
 もうその頃は、千代は小次郎の船で揺られ、疲れが出て少し眠った。今日一日のことは夢なのか現なのかわからない。そうして千代の子供っぽい寝顔を乗せて、舟は京都に向かう川を小次郎の優しい櫂で上って行った。誰も、このフネに千代が乗っているなど、思いもしないのである。   (道頓堀編:終わり)

112
芳根杏子
ID: qOrCTD2dPV 
2021-01-05 12:49:15

by星★さんへ
とても良い台本だと思います。

113
■恐縮です by星★
ID: sny7tVpkZo 
2021-01-05 21:47:30

芳根杏子様
 「とても良い台本」と言っていただいて恐縮です。
(もう2ひねりぐらい入れないと、「少し退屈かな?」とチョコッと思ったりしています。)

114
■女優競演 by星★
ID: 87Ye4VZRRo 
2021-01-10 22:58:31

 よく知られたドラマのリメイク版で、女優の競演を見てみたい。
 例えば(私の、今回、念頭にあるのは「家政婦のミタ」で)、脚本は従来のものと同じで、「主演の女優と監督」が1話ごとに変わる。どういう演技の差があるか、どうクライマックスになってゆくのか見てみたい。

 まあ、バリエーションとしては、監督を変えて、「怪談」版、「スパイ」版、「戦時中」版、「喜劇」版、・・・などなど週変わりでの「家政婦のミタ」。

 いつもドラマを「なんとなく」見て女優の演技も監督の演出も当然と思っているが、<女優の演技や、監督の作風など>、それが実際はどうなのか見てみたい。

115
■おちょやん異聞4 by星★
ID: 87Ye4VZRRo 
2021-01-10 23:14:10

■おちょやん異聞4  ~京都到着編~  
 子供の頃は、悲しければ涙が出る、嬉しければ笑顔になるだけで、感情を表す表情は単純に一つに決まっていた。大きくなり、千代は嬉しいのに涙が出ることがある事を知った時には驚いた。
そして、今、悲しくても泣かないことを知りつつあった。
 明日、天気になあれ、舟の上で千代はそう思った。
今の希望は不安だらけだ、何故か、晴れであれば、希望が少しだけ叶い易くなるような気がした。今までの奉公の日々、これからの、まだよくわからない「何か」の日々・・・。そう思っていると、ふいに、「岡安」は大きな家族のようだった、とつぶやいた。・・・家族?千代は自分の言葉にびっくりした。自分には家族が無いと思って生きてきたからである。
あの日々、一人で泣いていた日々は、何だったんだろう?と千代は幸せな後悔をした。後悔がこんなに幸せだと知らなかった。

 千代は京都の伏見に最初に降り立った時、朝だった。船で揺られ一夜を過ごしたのである。そこで、カメさんからもらった荷物の中の、いかにもカメさんらしい大きな大きなおにぎりを食べた。そして、その一つを小次郎に渡した。小次郎は受け取るのを嫌がったが、千代は駄々をこね無理やり受け取らせた。小次郎は、駄々をこねられ、困らされ、それがとても嬉しかった。
 そこから徒歩で京都に向かった。奉公時代のおかげで、足は疲れを知らない。京都の街並みが見えた時、千代は四角い街を走る風を感じた。大阪の街は色々な角度があったが、京都の街は四角い、と、それが千代の奇妙な京都の第一印象である。

 こんな人生でも、愛を知る時が来る。道頓堀を離れて、初めて、愛に包まれていたことを千代は知った。意外にも、愛には少しだけだが寂しさが混じっていた。これから大人になってゆくにつれ、この寂しさを何度となく味わってゆくということにはまだ気づかなかった。
 「家族」の様な愛に包まれていたということを道頓堀で気づかなかった事、今度は、そのことを千代は悔しく思った。自分は愛されていたと感じる事が遅い。自分には、愛は遅れてくる。愛に気づかなかなかったのは自分の育ちの「ヒガミ根性」だと思った。この少女は、ずっと、そんな愛への「ヒガミ」の負い目を心のどこかに抱いて生きてきたのである。

 千代は、ご寮人さんから渡された名刺を胸に抱いていた。ここを訪ねてゆきなさい、と言われたのだ。けど、名刺の、その文字を見る時は目をつむる、何かの決意を胸に秘めた人のように。「私、自分の力を試したい。ご寮人さんから教わったことを自分の力で試してみたい。御免なさい・・・」誰も知らない自分一人の決心なのに、誰かに弁解しないと、何故か気が咎めた。
 千代の愛は二つになった。おかあちゃんの愛と、ご寮人の愛。その二つを小さな胸の別のところにしまい込んだ。まるで、心の中に二つの月があるようだった。
 また、その愛にまだ素直になりきれないスネた子が自分の心の中にいることも知っている。口癖のような「心癖」で、どうせ自分はテルヲの娘だから、と思った。素直になりきれず、先回りして悪く悪く考える、そんな「自分のせい」だと考える癖が抜けない。「自分のせい」だと考えながら、実は、ただただ、ご寮人さんに迷惑をかけることを何よりも恐れていただけなのである。
 ご寮人さんは千代の音信が途絶えたことをとても心配して、京都の知り合いに何度か問い合わせていたが、肝心の千代は色んな事を考え過ぎて、そのことには気づかなかった。

 まず、仕事を見つけなくちゃ、と千代は思っていた。

116
名前無し
ID: BRAr/EIeVu 
2021-01-10 23:14:15

「家政婦のミタ」もう1度見てみたいです。

117
芳根杏子
ID: UDuHh5fs1z 
2021-01-10 23:36:49

by星★さん、小説家みたい!

118
名前無し
ID: YssjY.F1qx 
2021-01-11 10:15:55

ドラマサイトやTwitter、ブログ等で、色々なドラマ感想を書いている人達の攻防戦?や人間模様、ドラマサイト管理人の苦労を描いたドラマ。

各局の実在ドラマのパロディ?とかがストーリー上の題材になってくると思うので、色々難しい部分もあるかもしれないけど、今期のバイプレーヤーズを見ていたら、それもどうにかクリア出来そうな気もするんだけど。

何より、ドラマ好きの人達や、ドラマ感想を書いている人達にとっては、とても興味ある題材だと思う。

今期、香取慎吾主演でSNSの誹謗中傷を題材にしたアノニマス?というドラマがあるけど、誹謗中傷ばかりでなくて、一人一人がネット上に書くドラマの感想が、どれだけ千差万別で、どれだけ様々な評価が行われるものなのか、様々なメディア(TVの番宣、雑誌の取り上げ等)の媒体側の描写や、サイト管理人側の描写も含め、ネット上の様々な書き込みを第3者的に捉えたドラマがあったら面白いかな、と思いました。

自虐ネタが得意?なテレ東あたりで作ってくれないかな。

119
■ミタを見た by星★
ID: aF.uVSzepl 
2021-01-11 11:43:37

 芳根杏子様
    「小説家みたい!」というのを、単純な私は、一応、誉め言葉と受け止めて(*^^*)、千代の新生活ということで心理の描写をテンコ盛りにしたので文章上見栄えがするのだと思います。小説っぽいのは、学生時代の私の本好きの友達の影響ですが、私もその為、本は嫌いではないのですが、怠け者の為、読む量は少なく、たぶん「本の雰囲気」がすきなだけだと思います(また、続きを書きたいと思っています)。

 NO「116」さんの、「家政婦のミタを見てみたい」、という投稿を見て、私自身ミタを見てみたくなって、見てみました。エアチェックしたDVDがあるのですが、私が好きなのは、最後から1つ前の話の第10話。物語のクライマックスは、最終話でなく、その一つ前ということがままあると思いますが、第11話の最終回より、第10話が素晴らしかったという記憶があって、それを見てみたら、「愛」の前で逡巡する家政婦のこの哀れな女性の告白の時間が交錯し挿入される表現が圧巻で、リアルタイムで悲しくなってしまいました。記憶力が悪いおかげで、最終話の記憶がほとんどないのですが、最終話は、今は見ないことにしました。このモヤモヤ感もなかなかのものです。
(そういえば、チェ・ジュウ主演で韓国版「怪しい家政婦」というリメイク版があったような気が今更してきました・・・・NET検索してみると、評価は「良否」両極端。どこかでレンタルを探して、試しに10話を見てみようと思っています)

120
芳根杏子
ID: 798sy9JY0Z 
2021-01-11 14:04:46

by星さん
丁寧なお返事ありがとうございます。
おちょやん異聞5を楽しみにしています。

121
■おちょやん異聞5 by星★
ID: aF4KUvW.H1 
2021-01-14 21:36:45

■おちょやん異聞5    ~京都就活編~ 
 道頓堀は目の前にポカンと浮かんだ箱にオモチャがギッシリ詰まっていた。しかし、京都という箱は、まだカラッポでそこに何が入るのかわからない。そこで、胸の中から、お母ちゃんとご寮人さんの2つのビー玉を入れて振ったらコロコロと優しい音がする。それで千代は落ち着いた。
 新しい場所には新しい時間がある。京都の時間は、お茶子時代と違い、その間尺は長くも短くもなった。だから、千代はその時間をしばしば思い出と勘違いし、京都は現実とは違う世界のような気がすることがある。
 京都駅近くまで来た時はお昼でソバを食べた。そこで、見知らぬ家出の少女と知り合いになった。
 家出だというのもすぐに分かった。道頓堀に来た時の自分の顔、現実と夢、希望と不安がまだらに混在し映し出された表情、それに似た顔を鏡で見るようだった。千代も家族を捨てた家出だと思っていたから・・・。
 お姉さん、こっちよ、と最初に千代が柔らかな言葉をかけた。真理も氷の解けるような透明な笑顔をかえした。「宇野真理」ナマリで富山生まれだとわかった。千代は、外見や喋り方で、その人がどういう人か色々とわかるのである。それは「岡安」の経験からである。また、正直か嘘つきかもわかったが、これは「岡安」以前の貧乏の経験からである。
 そして、そのようなことがわかっても決して口にしないのが、ご寮人さんの「教え」だった。
 二人は姉妹の様に喋った。千代は、自分が世話焼きな妹のようで嬉しかった。ずっと姉が欲しかったのである。小賢しい自分を苦にしない、のんびりとした姉を。
 そしてすぐに人を信用する真理は、大切な秘密の様に千代の目をのぞきこんでこう言った。
 うちな、千代ちゃん、女優になりたいの。
 駅の近くに商人宿がある。「岡安」のような芝居茶屋近くの宿は建物自体が飾り立てられ、入口も華やかだ。商人宿の入り口は小さく簡素な入り口だった。「生活」に似ていると思った。
 お嬢ちゃん、ここは若い女の子達がくるような宿じゃないよ、と煙草の匂いのする声が響く。
 違うのよ、お父ちゃんが商売を終えて明日来るの、今日は私達だけだけど、・・・馴れた口調で嘘がスラスラとでた。「岡安」に奉公する前の口調である。
 そうかい、それなら良いよ。千代は嘘が通じて嬉しかった。隣にいる真理と秘密を分かち合えた喜びである。このようにして子供達は友情の証として多くの嘘を覚えてゆく。
 荷物を預けて、就活の為、この二人は、小鳥の様に見ず知らずの街に飛び出した。
 ご寮人さんの名刺の商家や、口入れ屋も二人で外から眺めただけである。気おくれがした。希望という袋の内側が不安でいっぱいになり二人して臆病な小鳥になった。口入れ屋を外から見て、真理は家出のことを、千代は、テルヲのことを思いだしたのである。大阪の経験で、人通りの多い場所のカフェに色々な話があるような気がした。二人は人通りの多い庶民的なカフェに入った。聞き耳を立てる。おあつらえ向きの話はない。不安はまず耳から入って、動悸しながら心臓に入ってくる。真理はぼんやりと人を見たり印刷物を見たりしている。
 その日は大した事もなく、宿にかえって姉妹の様に布団を並べて敷いた。カメから渡された荷物の中に、自分の財布とは別に小さく畳まれた紙幣を発見した。「カメさんらしい・・」とそれがカメの仕業だとすぐわかる。紙幣は小さくキチンと畳まれていたが、何かしら大雑把なのだ。カメの善意はいつも大雑把で無造作で他意が無い。千代はその金額を紙にメモし、お金は職を探す為に使おうと財布の中に入れた。そのメモは、千代にとって大事な未来への約束手形だ。辛い時、たびたび千代はこの約束手形を見た。このとき、ふと涙があふれてきたのは、乞食の小次郎さんも別れ際、お金を渡そうとしたのを思い出したからである。あの自分の昼弁当にも困っていた小次郎が。
 「何やってんのよ、小次郎はん。冗談ばっかり」そう、こまっしゃくれた口をきき、千代は物の分かった生意気な瞳で小次郎を見返したつもりだった。けど、急に嬉しくて嬉しくて、声は涙声で、顔はうつむいて上を向けなかった。千代の喜びは、そのような体も心も抑制のきかない感情だった。だから小次郎を見ないで、お金を突き返すのが精いっぱいだった。だから、「じゃ、行くよ、千代」という小次郎の最後の顔の記憶がないことに今やっと気が付いてシクシクと泣いた。
 そんな千代を真理は黙って見ていた。まるで、姉の様に。

<・・・余り面白くないかな?平凡かな? by星★・・・>

122
横浜流れ星
ID: ck1S8Dx3bX 
2021-01-14 21:56:25

>>121
もし…素人さんだったら、高く評価します。
小説家を目指している人ですか?

123
夏菜子
ID: ymqV2Qb8hw 
2021-01-14 22:47:03

おちょやん異聞5 by星★さんへ

非常に細かい背景の描写が素晴らしいと思います。
人物の心の描写もキャラにブレがなくて良いと思います。

内容も専門の脚本家の手を借りれば、ドラマにできるのではないでしょうか。

124
名前無し
ID: 6VU37eCXHe 
2021-01-15 05:10:23

121さんへ
とても素敵なストーリーだと思います。
朝ドラより良いかも?
できれば、続きが読みたいです。

125
芳根杏子
ID: abAnshKKro 
2021-01-15 09:51:35

by星★さんへ
けっこう面白いです。
京都編で、続きが読みたいです。
ホンモノ朝ドラは、今回は違和感が多いので、脚本を作り直してください。(笑)

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126
■ご厚意に感謝 by星★
ID: ju4udOu.sJ 
2021-01-15 13:06:42

 「横浜流れ星」様、「夏菜子」様、「124」様、「芳根杏子」様
   好意的ご意見有難うございます。自分の文章というのはなかなか自分で客観的にわからないので、ご意見を聞くとホッとしますし、過分なご厚意だと思っています。
   さて、この異聞も後、2話くらいは書こうと思っています。「女優になります」迄は、何とかアレンジして物語になりそうなのでそこまでは、という思いです。うまく描ければ良いのですが。
  (ただ、今週の「楽しい冒険つづけよう」の舞台練習や劇中劇、そして、今日から始まった映画撮影所のところは、アレンジしようがないという感じです)

127
■幽霊 by星★
ID: ju4udOu.sJ 
2021-01-15 14:18:15

 「こんなドラマあったら・・」ということで「女流スターシナリオライターの栄光と没落物語」のドラマなどどうだろう?と思う。
 ドラマがヒットすれば、映画化、関連商品などのうま味がある。そこで、スターシナリオライターを意図的に作り上げ、実際は、複数人のゴーストライター集団(「幽霊」)がいる。ストーリーの骨子は、プロデューサーとゴーストライターが組んだ成り上がり物語。けど(まあ、定番だけど)成功目前で、ゴーストライターとの気持ちのほころび、恋愛感情から破綻する、という話。
 脚本家は裏方感があるので「女流」とし、今風感を出すなら、アニメの世界が良いかもしれないし、恋愛要素をいれると(アニメ世界としつつも)大人のドラマになりうると思う。それに、ゴーストライターは色々おられるだろうから、リアル感も出しやすいと思う。
 今まで脚本家の物語って余り記憶がないように思っていたら、今日、TVを見ていると「シナリオライタ」の新番組が始まるみたいでびっくり。ただ、
それは家庭を中心にしたドラマのようだし内容はカブらないと思う。

128
名前無し
ID: 6VU37eCXHe 
2021-01-15 16:25:10

by星★さん、発想が柔軟で素晴らしいし、文章も上手いと思います。

129
夏菜子
ID: abAnshKKro 
2021-01-15 22:40:36

by星さんへ
私の理想の千代は、だんだんと階段を上っていくように、女優としての評価を上げていき、最後に有名女優になることです。
でも、モデルの人がいるから…そうもいかないんでしょうね?

130
■おちょやん異聞6 by星★
ID: fFeFhOyJNx 
2021-01-18 00:52:14

■おちょやん異聞6   ~京都カフェ就職編~
 街にはそれぞれの体温がある。日本でも世界の都市でも。そうして、街の一日の体温も街なりの変化がある。京都という体温が温まるのは、大阪に比べやや遅いように千代は思った。だから、翌朝、千代は長い間寝床で目覚めていたが、真理はスヤスヤと眠っている。その寝息が無ければ、千代は暗い京都に飛び出していたかもしれない。二人はそろって街に出、午前中は就職の何の収穫もなかった。二人は公園で腰掛けておにぎりを食べた。まるで遠足のようで「普通の喜び」がうれしい。子供のように手首に巻き付けていた輪ゴムで千代は指鉄砲を作った。千代は、ベンチの傍らの花壇で遊んでいる男の子に、こっち!と声をかけた。振り向いた子供は狙われているのに気付いて面白がって大げな素振りで花影に隠れた。輪ゴムは花に当たって赤い花粉が散り、二人は大笑いした。昔のしあわせたに戻りたい時、千代は子供っぽい行動をするのが常だった。
 真理は、千代の袖を引っ張った。千代はこんな真理の穏やかな仕草がとてもいとおしい。・・・巾着からチラシを取り出した。「昨日立ち寄ったカフェにあったの。これ」と恥ずかしそうに言う。
「俳優カフェ、女給急募」と書いてある。昨日からずっとこのチラシを胸に秘めたまま、何も言わず千代の行動にあわせてくれていたのだろう。「ねえ、行って見ない?」といったのは千代の方である。刷り込まれた地図をみるとすぐ近くである。千代が迷わず自分から言いだしたことが、真理は嬉しかった。

 知らない場所では、人も土地もよそよそしく見えるものだ。京都の街並みがよそよそしいのはそのせいだと思う。そして、人恋しさのせいか、知った顔が雑踏に混じっている気がしばしばする。公園を出た所で、不思議な事に向かいの道路の角に「栗子」を見た。千代は驚いて駆け寄ったが、すぐに街角で見失った。しばらくして、きっと人違いだったのだろうと思った。
 
 京都の街並みは四角い方眼紙の上に大小のマッチ箱を並べたようだ。夜にはそのマッチの様な小さなアカリが灯るのかしら、と千代は京都っぽいなと思った。道頓堀は空も川も川面も街並みも光が溢れんばかりだった。さて、区画の隙間の路地に階段があり、そこを降りると四角い大きな空間であり、その一片にカフェはあった。「ここよね。ここだわ、きっと」瀟洒な文字で「俳優カフェ」と描いてある。改めて上を見上げると、四角い井戸の底から空をうかがうように四角い青空が見える。いつも丸天井の空だがここの空は四角なのである。
 カフェの中に入るとグランドピアノ、ロダンの彫像、モネの睡蓮のレプリカ、そして、活動写真の監督と女優の写真が壁いっぱいに張ってある。その部屋の中央で、メガホンと露出計を首からつるした男が欠伸をして据わっている。このカフェは、親の所有する西洋建築をカフェに模様替えしたものである。親が映画会社の大株主で、この男はいわゆる「高等遊民」で、それなのに親の七光りを嫌っていた。
 このカフェは給与は雀の涙だが二人用の部屋があり、そこをタダで使って良いという。実は「俳優カフェ」という名前から千代は最初っから、真理の為にここに決めるつもりだった。夕方になれば、他の女給のみんなも集まってくるから、荷物があるなら今のうちに持っておいで、と監督は言う。カフェを出た時、階段の下から空を見上げると、気の早い星が四角い空に輝きだしている。階段を上がりきると、夕刻の空の下には沈殿するような紫色の夕焼けが滲みだしていた。
 千代は公園の傍らを通った時、昼間の男の子を探してみた。「随分とお気に入りの男の子だったのね、いいわね」と真理がいう。千代も、そうなのかなあ、と何故気になるのか、自分でもわからず他人事のような返事をした。
 「あ、忘れた。ハンカチ」と真理は言う、ちょっと待っててね、と真理はカフェに走っていった。

 紫の夕焼けが足元から滲んできて自分の体に濃い紫色の夜が染み込んでくるようだった、眠気が液体の様に体を浸してくる・・・。千代は公園のベンチに座ると、疲れが出てうたたねをした。そうすると昼間の男の子がベンチの横から頬にキスしてくれる一秒間の夢を見た。この夢は千代をたいそう幸せにしたが、千代は実はまだ誰からもキスされたことがなかった、頬にすら。
 千代、千代、と姉のように心配する真理の声で目が覚めた。そんなところで寝て風邪ひくわ、と言われ、千代は妹のように、ウン、と返事をした。真理と居て少しづつ素直になる自分が嬉しかった。
 さて、荷物をもってカフェに取って返し、部屋に入ると、小さなお婆さんが部屋の掃除をしていた。支給された制服を着て、何もかもが新しく、この不思議なカフェの一員になったのだと思った。

    <面白ければ、幸いですが・・ by星★>

131
芳根杏子
ID: dWx2XpckGy 
2021-01-18 08:42:42

おちょやん異聞6 by星★さんへ

すごい!すごい!
普通の小説読んでいる感じ。
素敵です。楽しませてもらいました。
次があったらもっと読みたいです。

132
名前無し
ID: Q6HgLR5Tzr 
2021-01-18 16:36:18

by星★さん
おちょやん異聞6、メチャ面白かった。
続きが読みたーい。

133
■後、2話程度は・・ by星★
ID: fFeFhOyJNx 
2021-01-18 17:53:13

 芳根杏子様、「132」様
   本当にありがとうございます。投稿する時は、うまく描けているかどうかで、UPした翌日の午前中半日ぐらいは心配しているので、・・・今は、ああ、よかった、状態です。
   以前書きましたとおり、「女優になります」迄は、何とかアレンジできる話なので、それに該当する分として、後、2話程度は投稿できると思います(伏線も回収する必要があるので)。
   これも楽しんでいただければ嬉しいです。

134
夏菜子
ID: dWx2XpckGy 
2021-01-18 23:02:23

by星さん
次回作品も楽しみにしています。

135
名前無し
ID: szHPBoR/pD 
2021-01-19 00:30:20

綾瀬はるかさんと高橋一生さんのラブコメを
日テレノリのドラマで観たいです。

136
名前無し
ID: 6Hh6YkDMpI 
2021-01-20 01:11:27

日テレで観たい😊

137
■おちょやん異聞7 by星★
ID: P3UxOtmlk. 
2021-01-20 17:19:03

■おちょやん異聞7   ~女優宣言編~ 
 新しいサーカスが始まると、それまでの不安が夢のようにかき消える。物事が、「平穏」に始まるように見える。誰も傷つかない様に見える。しかし、ロープが切れるかもしれず、猛獣は暴れ出すかもしれないのだ。
 夕方の営業開始の時間まで千代と真理は不安だった。自己紹介の時に現れた女給達は美しい子ばかり。ただ、真理の美しさは別格だった。しかし、その美しさは、は女優志願の少女たちに賛美より嫉妬心を起こしてしまった。
 「女優」意識の強い若崎洋子が、真理の自己紹介の時、真理のナマリを軽蔑した目くばせし、小さな風の様な笑い声が起こった。真理の唇は美しいが美しい言葉の為には作られていない、と言わんばかりに。笑い声は、千代のいら立った咳払いで収まったが、真理の小さな「ごめんなさい」という言葉は、唇の上で震えていた。
 情の強(こわ)い自分はともかく、傷付いた真理の心を思うと腹立たしかった。そうして、その夜、真理に、自分も真理と同じように女優になりたいと急に言いだしたのである。
 この決心には、舞台好きも高城百合子も関係無かった。
 夜、千代がそう宣言した時、真理は小さな声で「何故?女優?どうして今そんな事を言うの?」と聞いたが、千代は自分も大阪で芝居に憧れていたのと、ありきたりの説明をし、本当はあの嘲笑の為だとは言えなかった。
 真理を守りたいという本音を言うのは、何故か恥ずかしく口ごもった。人は、純粋に思えば思う程、それの心を隠そうとする。人の心は、純情というガラス細工用には作られていないからかもしれない。貧乏だった引け目が千代をなおさら臆病にするのかもしれない。
 ただ、ふと、・・真理が、私の言葉って本当に・・・と呟くと、千代は怒りが込み上げてきた。・・真理、あなたの言葉って、今まで真理が生きてきた証じゃない、と怒った。恥ずかしいなんて!それでいいの?千代は恐らく自分も、なけなしのプライドをも持って生きてきたことを思いだしているのだ。・・・ね、だから、そんなこと言わないで頂戴、嫌なら一緒にここを出よう。そして一緒に女優になろう。今までの真理でいて欲しいの。そうでないと、もう私、貴方と口をききたくない、と、大人しい姉に焦(じ)れる妹のようである。姉思いの駄々をこねる妹のようなものでもある。
 千代が口をきいてくれないのは・・困る・・・私、とっても困ると哀しそうな顔で呟いた。
 じゃあ、一緒に、悲しんでくれる?当然よ。一緒に、笑ってくれるの?すると、千代は無理に笑う顔を作ろうとした、すると、真理も涙目のまま無理に笑おうとした。二人はお互いのその変な顔が可笑しくてクスクスと笑い出した。二人の部屋には勝手に住み込んだ猫がいたが、その猫も二人の顔を見て、いつものようにじゃれついてきた。
 千代は、以前から愛されることが遅いと思っていたし、今も思っている。ただ、そうこうする内に、こうして、真理の愛が静かに自分の中に根付いてゆくのをまだ知らないでいる。

 ・・・こんな経緯から、女優希望のことは他の女給たちには話さなかったが、後日、監督にはよもやま話のついでに話した。すると、こんど劇団を推薦するよ、と冗談のようなことを言ったが、千代は余り当てにしていなかった。

 嫉妬する女達を除けば、真理は誰にも好かれた。それは千代の好かれ方と違った。千代は人が何を考えているか考えて気を遣う、それで好かれる。ただ、時々それが自分でたまらなく嫌になる。それは貧乏が育んだ自己防衛だと思えたから。けど、真理はそのままで好かれるのである。真理はここの家政婦にも好かれ、にこにことその話を聞いたり喋ったりしている。三田という小柄で少し派手な化粧をしている年配の女性で、真理ちゃん、しっかりしないとダメよ、と言われても、ニコニコして、はいと答える。会って日も浅いのに、もう親し気に部屋で談笑している。

 この日ごろ、京都に来ての出来事は、道頓堀と違う、今までの「子供の領分」を抜け出した何か違うものが始まった様な気がした。千代は「大人」という言い方は嫌ったが・・・それは娘、そして、女としての領域なのかもしれない。なお言えば、・・これは埒(らち)もない言い方だが、それは女優というサーカスなのかもしれない。
 そんな時、ふと、先日の公園での姉弟のようなじゃれあいを、今日の事のように思い出していた。ある夜、千代の夢に公園の男の子が出てきたのである。
・・おねえちゃん、「今、思い出さなくて良いよ」という。よく見ると、その顔は弟のヨシヲに変わって、周りはヨシヲとよく遊んだ竹林になっている。ヨシヲ!と千代は叫ぶ。するとヨシヲは言うのだ。
「来ないでお姉ちゃん、僕、お姉ちゃんの悲しい顔を近くで見たくないんだ、僕の事思い出すといつも寂しいんでしょう?」と悲しい声がヨシヲを包んでいた。だって、今のつらい経験より、つらい思い出の方がやり切れないみたいみたいだ。
お姉ちゃんって泣き虫だから。だから、もうしばらく思い出さないでいいんだ、って思って欲しいの。いつかきっと会えるから。その時はまた公園の時のように遊んでね、といって手を振って小さくなって消えてしまった。翌朝、千代は夢の事を何も覚えていない。頬のあの個所に少し泣いた後があるような気がしたが、理由は思い出さないほうが良いのだと、何故かそんな気がした。

 < ちょっと長いかな・・・。  ~おちょやん異聞8へ続く~ >

138
夏菜子
ID: esogLOv0r4 
2021-01-20 18:34:44

by星★さん
決して長くはないです。
一気に読みほすには、ちょうどよい長さだと思います。

情景が頭の中で思い浮かべれます。
杉咲花が出てきますよ😊

139
名前無し
ID: gPrP64sReJ 
2021-01-20 22:21:09

■おちょやん異聞7 by星★様

面白いです。
立派な小説になってますよ。自信持ってください。
続き期待してます。

140
名前無し
ID: p93OubbZDC 
2021-01-20 23:11:05

ドラマからインスパイアされた小説を書くスレを立ち上げられたらいかがでしょう?
決して嫌みでいっているわけではありません。

141
名前無し
ID: NkxHfw0PZx 
2021-01-21 05:55:24

自分で、思い通りの朝ドラ作るって、素敵なことだと思います。

142
名前無し
ID: VSNqQclLh3 
2021-01-21 06:47:42

あと一話で、本当に終わってください。

143
芳根杏子
ID: yZRMH7Zelh 
2021-01-21 09:17:51

by星★様
すごくよくできたストーリーだと思います。
真理さんの活躍も楽しみですね。

144
■ただいま作成中 by星★
ID: UumK2Y6IRF 
2021-01-22 15:36:22

 皆さま、「おちょやん異聞」いつも色々とご意見ありがとうございます。「余り面白くないかな」という回にも親切にご意見を寄せて頂き恐縮しています。最終部分を作成中ですが、長くなってしまって、削ったり修正したり、雑文とは言え、私なりに納得した上でと思うとついつい・・
 さて「140」さんの「スレを立ち上げられたらいかがでしょう?」のご意見ありがとうございます。正論かと存じますし、ご配慮の滲む表現に、感謝しております。
  私も色々考えながら進行し、その中で今回のような形を取りましたが、心苦しいとも感じています(立ち上げても、最後まで継続するには困難が大きいかも、等々の心配も)。
  他方、当「こんなドラマ・・・」も、せっかくの良い発想なのに、自分の思いだけで投稿が単発になり勝ちかもと思い、なら、色々なバリエーションがあった方が、にぎやかにもなりお茶の間らしい面白さも生まれるのではないかと、まあ、これは、自分に都合の良い考えで納得しているというところなのですが、そう恐縮しながら投稿しているというところで、ご了解いただければ嬉しく思います。

145
名前無し
ID: y1Bf3op7Q. 
2021-01-22 16:12:17

by星★さん、楽しみに待ってまーす
頑張って下さい!

146
140
ID: I7/SyM/y0b 
2021-01-22 18:40:48

星★ 様
140です。
私の書き込みにご返答有り難うございました。
星★さんのお考え、よくわかりました。

147
■おちょやん異聞8 by星★
ID: 5cK4IIND6o 
2021-01-25 00:03:01

■おちょやん異聞8     ~女優決意編~  
 千代の人生はやっと海原に出た小舟のようだ、曲がりくねった細い川からの船の航路はやっと海原に通じ、爽やな声を上げる鳥が寄り添う。鳥達は羽の風切りを振るわせて飛び盛っている。千代は鳥の心を感じ幸福だと思う、そんな日々である。
  ある日、千代ちゃん、と真理は言う。私の荷物、触ってない?え、触ってないけど。何が見当たらないの?私と母の写真。それなら置き忘れよ。お金は大丈夫なんでしょう?お金はね、・・増えてる気がする。お財布に入れていた写真がなくなって、お金が増えてる気がする。え?しっかりしてよ真理ちゃん。そういって、余りにとりとめもない話に二人供、屈託なく笑い出した。
 「俳優カフェ」には、「監督」の親の七光りで映画関係者もやってきたが、怪しげな人間も多い。のんびり屋の真理にスカウトが二人連れでやってきた。真理を主演に映画を撮ろうというのだ、真理は確かに美しかったが、余りに都会慣れしていないおっとりさに話が進まなかったのか、沙汰止みになったのだろう、すぐに来なくなった。
 直後、刑事達がやってきた。実は、刑事たちは、真理をスカウトに来た二人を詐欺師で追っているといい、最近何か無くなったものがないか、と千代と真理に聴いた。・・実は、私の写真が・・とピントの外れたことを真理が言うのを、千代は呆れながら見ていた。
 とこうする裡に、千代は、急に、監督から推薦され女優の面接を受けることになった。活動写真でなく舞台である。義理半分、興味半分というのが本音で、ただ、人生の可能性を試したかった。
 鮮やかな雨後の晴れの日に山村千鳥一座の座員面接日である。新京極の劇場に出かけると、雑踏は、まめまめしく人が行きかい無害な声で溢れている。

 さて、面接の場に現れた千鳥は、あの日、街角で会った、「栗子」だった。最初、驚いたが、真近に相対峙すると別人とわかるのだが、蜃気楼の様な逃げ水の不思議がある。どこかに蜃気楼の反映の元になる事実がある筈だが、それがどこからの乱反射かわからない・・・。
 そう思う間もなく、面接での、千鳥の言葉遣いの傲慢さ、ヒステリックさに驚いた。面接の後は舞台に立ってセリフを読むのだが、紙を渡し「さっさとお読みなさい」「やるの、やらないの」と舞扇を膝に打って乱暴な言いざまである。
 千代は、あきれて、少しからかってみたくなった。それで、セリフを抑揚なく素人そのままに棒読みした。すると「酷すぎる」と聞えよがしな傲慢な声が聞こえた。その傲慢さは、また「栗子」を連想させた。・・さて、面接はそれで終わり、千代はあっけにとられたが、帰って、監督に採用はされないだろうと報告した。
 
 虫は幼虫である間、日常はあっても運命と呼べるものはないだろう。だがある日、我知らず蝶に形を変える時になって、運命を感じ、そうしてあの葉をそしゃくした日常も運命の一部だったと知るのかもしれない。
 面接からニ三日すると、放物線が弧を描いて地に落ちるように、ある考えが千代に落ちてきた。あの栗子と千鳥を「似ている」と感じた事についてである。それは、あの二人が、かって美しく「憧れられた」女達で、しかし今は、その「美」は衰え「憧れられる事も無」い、という事である、その投げやりな退廃、倦怠、そして傲慢さ、そんな雰囲気が「似ている」と千代は感じたのだ。ただ、その「衰え」に、千鳥は芸にしがみつき、怒鳴り、他方、栗子はしがみつくものすら失く、人や運命におもねり、テルヲの様なろくでなしと暮らしを選択したのだろう。
 「千鳥」と言う反面教師に会い「栗子」への嫌悪を思い起こし、千代はこの二人のように敗北したくないと思った。今まで自分を翻弄したした過酷なもの、自分がずっと「運命」と呼ぶことを恐れていたものを、今「運命」と呼び、それに勝ちたい、と思う。その運命の新たな顔が真理の前で宣言した「女優」というものだと思った。ただ、「女優」になるにしてもヒステリックな千鳥にも、家庭を不幸にした栗子の様にもなりたくない、とも思う。自分は、運命に勝って、失った「家族の寄り添う団欒」を取り戻したい。そうして、後日、劇団に加わる時、千代は「茶の間に親しまれる」女優、お母ちゃんのように月の様な優しく美しい女優になりたい、と思う様になったのである。

 しかし、そんな意識的な考えとは別に、千代が女優になりたいと思うのには、無意識で単純で、もっと強烈な「もう一つの理由」があった。・・俳優への希望が千代にのしかかってくると、一平の顔が思い浮かぶのである。千代は一平のあのいつもの、意地の悪い言い方を思い出した。一平も今頃、自分を思っているだろうか、あれから一平は自分のことを何度思い出してくれたろう?自分の女優になりたい、という気持ちを聞いたら、どんなに意地の悪いことを言うのだろう。ああ、そんな言葉でも良いから聞いてみたい・・。
 そうして、女優になりたい、という希求の根っこにある一平の影に、千代は、自分自身、気づかないふりをした。・・・ただ、そんな日の夢で千代は一平に再会し、幸福な少女になった。

 そういう日頃を過ごしながら、千鳥の採用試験は不合格に決まっているが、惜しいことをしたかもしれないと思いだしていた。

148
■おちょやん異聞9 by星★
ID: 5cK4IIND6o 
2021-01-25 00:11:07

■おちょやん異聞9     ~千代と真理~
 ある日、千代が朝食を取っていると、山村千鳥一座に合格した、と、監督が小鉢の花に小さなジョロで水をやりながら新聞を読むような声で千代に告げた。
 あんな面接で?そう思ったが、概して試験の結果は、本人の思惑とは別の結果になるものかもしれない。さっそく出かけてゆくと、劇団員は気の毒そうに色々と劇団のこまごまとしたことを話してくれた。まあ、テイの良い雑用係である。千代は大阪で多くの芸人を見てきた。弟子入りはそういうもんだと思っている。かえって気が軽くなった。

 そうして、千代がカフェに帰ってきた時、そこに刑事が来ており、真理から一緒に警察に来て欲しいと言われ、驚いた。刑事の話はこうである。
 二人のスカウトが詐欺師だった事は述べたとおりだが、そこには別の首謀者がいた。それは意外にも、二人の部屋の掃除をしたり、真理と楽しく話をしていた家政婦のあの年老いた三田である。
 父が嫌で家出した時に、秘密で母がまとまったお金を真理に渡していた。それに気づいた三田は、あたしが探りをいれ、それから手引きしてあげると、子分二人に言ったそうである。ただ、その後、三田は、色々と口実をつけグズグズし、挙句、二人の前から姿を消した。二人は三田が金を持ち逃げしたと思い、京都から逃げるように列車で出ようとした三田を見つけ、持ち逃げしたものを要求した。ただ、三田は真理の写真しか持っていなかった。どこに隠した?とケンカ口論になった所を、警察に通報され、京都駅近くの警察で取り調べを受けていたのである。

 三田は心変わりしたのだ。それについて、最初、何もしゃべろうとしなかったが、やっと話したことは、真理の荷物を探っている内に、母親と真理の一緒に映った写真を見て、その子供の頃の真理の服の柄が、死んだ子の為に自分が選んだ服の柄と同じだったったらしい。・・・若いころ火事で夫と子供を失くし、その後は、世間に背を向け、恨み、その悲しみに耐えられず、気を紛らす事、お金になる事なら何でも良いと思うようになっていた。ただ、写真を見た時、その愛した子供の服の記憶がすべてを引き戻た。三田は、服の感触を知りたくて写真の上を指でなぞってもみた。そうして、ただの、悲しい母親に戻ったのである。私の、子供、私のアカリ・・アカリとは娘の名前だそうだが・・そう言ってまた黙り込んだそうである。ただ、真理の財布に少しだけお金をしのばせたことは刑事たちには決して話さなかった。内緒で子供にお小遣いをあげる優しい母になりたかったのかもしれない。

 警察の殺風景な建物の入り口には、やけに長い廊下があり、その窓際に小鉢があり赤い花が咲いている。その花の名前は不明だが、一年草、の何かだと思われる。一年草とは、一年の内に、芽を吹き、花をつけ、実を結び、しぼみ、短い命を足早に過ごしてしまう。・・・花を見つめ、誰からも聞かれてもないのに、真理は答えるような口調で言った。
 ただね、花粉はどこかに運ばれているんだって。そこでまた、次の年に知らない場所で花を咲かせるのね・・。この前、監督がそう言っていた。監督は、以前、花の様子をフィルムにした事がある。

 千代と真理が来たのを知って、三田はふて腐れた顔をした。人は心の動揺を隠す時に、よくそんな顔をする。よく見ると、化粧をしていないと、タダの小さな老いた女だった。目の縁が少し紅いのがのぞき見られ、千代はそれは涙の跡と思った。その涙が、この不幸な女の目から流れた赤い花粉の様な気がした。しばらくして、真理は、母の写真を返して欲しくて、お母さん、お母さんの・・、とつぶやいた。
 すると三田の下を向いた顔が急に突っ伏して声を出して肩を震わせて泣きだした。真理は「私と話す時も、いつもそんな悲しい思いをこらえていたの・・」と呟き、悲しくて切なげな顔で近づき、その母の肩を抱いて、二人して泣きじゃくった。

 千代と真理は、それぞれの形で傷つきながら、滞(なず)みながら、また笑顔になりながら、女優を目指してゆくのである。
  <「女優になります」:完>

149
名前無し
ID: 0tY75XjKAX 
2021-01-25 05:59:16

147■おちょやん異聞8 by星★さん
148■おちょやん異聞9 by星★さん

すごい!おもしろくて、一気読みしました。
「おちょやん」に似てるけど…ちょっと、そこに違うものを感じました。
物語が終わってしまったのが、もったいないような感じがします。

150
芳根杏子
ID: tDMwTOTfPJ 
2021-01-25 08:37:00

by星★さん
素晴らしいですね!
読んでいてワクワクします。
できれば、まだ続けてほしいです。



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